G7で大活躍、JR西「観光船シースピカ」誕生の秘密 地元海運会社と共同開発し瀬戸内海クルーズ

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江田島といえば、かつて海軍兵学校があったことで知られる。現在は海上自衛隊の第1術科学校となっているが見学は可能であり、立ち寄りルートに選ばれてもおかしくなさそう。ただ、江田島と目と鼻の先にある呉港にも立ち寄るので、さらに江田島にも立ち寄ると旅程がせわしなくなるといった理由からルートに含めにくいようだ。

だが、江田島市交流観光課の尾上元気主任主事は「全国有数の牡蠣の生産地としても知られ、近年はオリーブ栽培も盛んだ」と江田島の良さをアピール。江田島を訪れる観光客の数を増やしたいと考えていた。そこで着目したのがシースピカである。「なんとかして江田島に立ち寄ってほしい」。

チャンスは冬季だ。穏やかな海というイメージのある瀬戸内海だが、冬季はそれなりに荒れる。そのため、冬季はシースピカにとってオフシーズンであり、旅行会社から要望があればチャーター運航する程度にすぎない。しかし、広島港から近い江田島との間くらいであれば、冬季でも海は穏やかだ。しかも牡蠣のベストシーズンでもある。

冬季商品に「江田島クルーズ」

そこで、市とJR西日本、瀬戸内海汽船、そして日本旅行などが連携して、シースピカを使った江田島を中心とする冬季のクルーズ商品を開発した。広島港を出発して海上から宮島大鳥居を参拝し、江田島に上陸する。その後は、呉港に停泊する艦船を間近に眺めるクルージング。呉には立ち寄らずに広島港に戻る。昨年12月から今年1月にかけモニターツアーを16本実施した。

およそ6時間の行程のうち、江田島には3時間ほど滞在。2021年7月にオープンしたばかりのホテル「江田島荘」で源泉掛け流しの温泉、地元食材を使った料理を堪能する。地域住民による焼き牡蠣や特産品のマルシェも出店。「当地に足を運んでもらうまでが大変だが、一度お越しいただければ、良さをわかっていただけるはず」と、江田島荘の阿部直樹総支配人は胸を張る。シースピカのツアーは立ち寄りだが、宿泊してゆっくり味わってもらえるようなヨガ体験、サイクリング、釣りなどのコンテンツも多数用意しているという。

今後、G7の首脳たちが乗船して一躍注目度が高まったシースピカに乗ってみたいと考える人が増えるに違いない。江田島だけでなく、瀬戸内海に点在する島々もシースピカの立ち寄りを契機にその魅力が広く理解されるようになれば、観光地としての瀬戸内海の人気はより磐石なものとなる。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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