"奇跡のフォント"開発者の逆境だらけの8年間 「嫌われてもいい。やりたいことは絶対やる」

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そんな苦労がありながらもUDデジタル教科書体の開発自体はそれなりに進んではいたのですが、途中で勤務先のタイプバンクの経営が立ち行かなくなり、同じくフォントメーカーのモリサワに吸収合併されることになったのです。

そこからは開発が止まってしまうなど、思うようにいかない時期が続きました。

新しい環境での仕事の進め方に戸惑うこともあり、「私はこの会社には必要ないのかもしれない」と思ってしまったことも、正直ありましたね。

それでも、UDデジタル教科書体の必要性を疑ったことは一度もなかったんです。

むしろ現場の皆さんにヒアリングをし、さまざまな意見をいただくほど、「絶対に必要」という思いは強くなりました。

だから、「このままお蔵入りするのであれば、辞めて、一からほかの方法を考えよう」と。ヒアリングし、試行錯誤したノウハウは私が持っているから、お蔵入りするくらいなら実現に向けてほかの方法を考えるつもりでいました。

結果としては、退職も辞さない覚悟で役員に直談判したことを機に、UDデジタル教科書体のリリースが決定。事態は一気に動き始めます。

話をしてわかったのですが、UDデジタル教科書体が認められていなかったわけではなく、会社としてリリースのタイミングを計りかねていたみたいで。「あ、私はこの会社にいてもいいんだ」と思いましたね。

「出すぎた杭」は打たれない

私はしつこくて、納得がいかない理由でやりたいことを諦めるのが苦手なんです。自分の力不足や、会社が認めてくれないといった理由では納得がいかない。

「そういう意味では、いちばんつらかったのは失恋かな?(笑)ほかの人の価値観を変えることはできないですから。そこで諦めることを学ばされたなと思います」(高田さん)(写真:Woman type)

こういう性格が仕事でプラスに働いているかは、自分では全然わかりません。

やりたいことに突き進めば、周囲と衝突することもありますし、出る杭として疎まれることだってある。いろいろな考えの人がいるから、全員が賛成者になるわけもないし、みんなには迷惑をかけているなとも思います。

でも、「出すぎた杭は打たれない」んですよ。そこまでいっちゃえば、「高田さんはそういう人だよね」ってなりますから。

それに、私にとっては「嫌われること」よりも「自分がやりたいこと」が上にあります。

だって、情熱を持ってやりたいんだから。自分にうそはつけないでしょう?

そうやってやりたいことに突き進んできた中で、嫌われることもあったし、相手にされないことだってありました。

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