算数が苦手な子になる「親が言いがち」余計な一言 サピックス小学部に聞いた「算数と数学」の違い

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佐藤:環境要因が大きいのですね。本当であれば、「苦手だけれど、好き」というパターンもありえるはずです。しかし、点数が取れないと好きとは言ってはいけないような雰囲気を子どもは感じ取っているのではないでしょうか。

しかし、私はその「好き」という気持ちこそ大事だと思っていて。「点数が取れない」という相対的なものは環境によって左右されますが、「好き」は自分の中にある個性です。そして「好き」という気持ちさえ失わなければ、学び続けていくこともできます。そうすれば、苦手意識を手放すチャンスは訪れるものだと思うんです。

広野:男女でいうと女の子のほうが苦手だと思い込みがちなんです。それは能力の差ではなく、男の子のほうがよくわからない問題に対してもどんどん挑み、失敗しながらも、解けるようになっていくことが多いからです。

「どうしてこういう公式になるのか」「どうしてこういう図形になるのか」といったことに納得していなくても、ゲーム感覚で解き進めていくことができる。一方で女の子は慎重に解き進めていくことが多い。算数はトライアンドエラーをしていったほうが力がついていきますから、結果的に男の子のほうが得意だという意識を持ちやすいのです。

算数から数学への転換はチャンス

佐藤:能力の差ではなく、算数の問題への向き合い方に若干の差がありそうだと広野さんは感じているのですね。苦手意識が相対的なものであるならば、環境が変われば、その意識は克服できるかもしれないですよね。

広野:その通りです。女子校に行って、算数から数学となって苦手意識を克服していく子たちをたくさん見てきました。算数への苦手意識を持っている子の割合が多いので、中1の最初の段階でじっくり数学的な理解を積んでいけるように注力していることがその要因のひとつです。

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例えば、図形の問題をいきなり出題するのではなく、竹と粘土を使って正二十面体を実際に作ってみる活動に時間を使うという学校もありました。じっくり納得するまで時間を使って軌道に乗せていくので、小学校の時は算数が苦手だったのに、中学生になって数学が得意になっていく子が多いんです。

実際に中学入試の時は算数がネックだったのに、高校では理系になったという子もいました。

佐藤:どのタイミングからでも、その教科を好きになることはできるということですね。苦手意識を手放していけるような働きかけは重要ですね。

広野:数学は「論理の教科」なので中学の段階できちんと学べば、コンピュータープログラムの世界につながっていくような可能性もありますよね。実際に、数学が得意な子はプログラミングも得意な子が多いのです。これから一層社会に求められる人材へと成長していくことにつながるかもしれません。

佐藤:算数から数学へ転換するタイミングは、培った力を活かしながらも、新たな気持ちで臨むことができるチャンスでもありますよね。「算数が苦手だから数学も苦手」と諦めるのではなく、魅力に気づく機会にしていけるといいですね。

佐藤 智 ライター・教育コラムニスト

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さとう とも / Tomo Sato

両親ともに、教師という家庭に育つ。都留文科大学卒業後、横浜国立大学大学院教育学研究科へ入学・修了。教員免許取得。新卒で、ビジネス系出版社の中央経済社へ入社。その後、ベネッセコーポレーションに中途入社し、教育情報誌『VIEW21』の編集を経て、独立。ライティングや編集業務を担う、レゾンクリエイトを設立。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著/翔泳社)がある。

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