ウクライナに「ウラン弾」供与、英国の重大責任 放射能汚染で「イラク戦争の悲劇」再現も

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前出の男性も尿検査を受けたところ、比較対象とするために提出された新聞記者2人の尿と比べて、そこに含まれるウラン同位体の量が4~8倍に達していた。分析を担当したドイツ人の教授は「男性の尿から検出された劣化ウランの量からすると、(呼吸により取り込まれた)肺の中の濃度は1000倍高い可能性もある」と言い切った。

劣化ウラン弾自体は“通常兵器”とされ、アメリカ軍やイギリス軍はその危険性を明確に認めてこなかった。戦争で劣化ウラン弾を使ったことは認めた一方、「健康に影響を及ぼすような量ではない」などとして、健康被害との因果関係を否定し続けてきた。

湾岸戦争やイラク戦争では油田の破壊などにより、さまざまな化学物質で環境が汚染されたことや、経済制裁で医療体制に深刻な影響が出たこともあり、劣化ウランによる被害とそれ以外の被害を見分けること自体が困難だった。

被害を抑止するための日本の役割

イラクなどで戦争被害を取材してきたフォトジャーナリストの豊田直巳氏も、署名の呼びかけ人に名前を連ねた。豊田氏はイラクの小児病院で白血病やがんに罹患した子どもを取材し、ヨーロッパ連合(EU)議会やフィンランド議会などで「ウラン兵器の人的被害」をテーマとした写真展を開催した。

アメリカでは退役軍人たちがウラン兵器の廃絶に向けて運動を起こし、2007年3月にはベルギー議会の本会議で「劣化ウラン弾禁止法案」が全会一致で可決された。2008年5月にはEU議会が「(劣化)ウラン兵器およびその人々の健康と環境への影響に関するEU議会決議」を採択。ICBUWなどが決議案採択に大きな影響力を発揮した。

イギリスの劣化ウラン弾供与に反対するジャーナリストやNGOメンバーらの記者会見(4月12日、東京都内、撮影:筆者)

国際連合でも「劣化ウランを含有する武器・弾薬の影響について調査を求める決議案」が2007年12月に採択され、日本も賛成票を投じた(アメリカやイギリスは反対、ロシアは棄権)。その後、国連決議は、2022年までに数回採択されている。ただ、クラスター爆弾や対人地雷のように使用を禁止する国際条約の制定は実現していない。

そうした中で今回、イギリスからウクライナへの供与が新たに問題になっている。

劣化ウラン弾は核兵器ではないものの、放射能汚染を引き起こす危険性を持つ。人権NGOヒューマンライツ・ナウの伊藤和子副理事長は、「『自然環境に対して広範、長期的かつ深刻な損害を与えることが予測される戦闘の方法および手段を用いることは禁止する』と定めた、ジュネーブ条約第1追加議定書」の条文にも反する」と指摘する。劣化ウラン弾が大量に使用された場合、ウクライナの復興にも重大な支障をもたらしかねない。

「唯一の戦争被爆国」を自認し、「核兵器なき世界」を目指す日本政府は、イギリスに供与撤回を求めることを含めて、今こそ劣化ウラン弾禁止に向けて働きかけを強めるべき時だ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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