アメリカの株価に一段と下落圧力が高まってきた 原油価格下落は限定、インフレ高止まりの恐れ

拡大
縮小

もし輸出合意が延長されなければ、小麦やとうもろこし価格を大きく押し上げることも十分にありうる。このように、エネルギーや食料品価格は、一皮むけば、夏に向けてあらためて高騰するリスクが消えていないのだ。

今後インフレが落ち着くとは限らず

こうした商品市場の不安定さは、当然ながら今後のインフレ動向にも大きな影響を及ぼす。市場は5月10日に発表されるアメリカの4月消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)などに注目をしている。

確かに、3月分のCPIやPPIは、ともに前年同月比で予想を下回る伸びにとどまり、「インフレ圧力が後退している」との見方を再確認する格好となった。だが、その後に発表された4月のミシガン大学消費者態度指数では、1年後のインフレ見通しが前月の3.6から4.6に大きく上昇、5カ月ぶりの水準をつけている。

一見、下落圧力がかっているように映るCPIも、細かい項目を見ると、食品とエネルギー価格を除いたコア指数の前年同月比は3月も5.6%上昇と、2月の5.5%上昇から伸びが加速。インフレ圧力が全面的に後退したわけではない。

FRB(連邦準備制度理事会)は5月2~3日に開いたFOMCで市場の予測どおり、0.25%の利上げを決定した。実際、ジェローム・パウエル議長は、今回で利上げが打ち止めになる可能性を示唆しつつも、利上げ停止を明言できなかった。

FRBのほかの高官からは、「インフレ抑制のためにはまだまだやるべきことが残っている」といった、どちらかというとタカ派的な発言がなお多い。こうした発言は、やはりインフレ圧力が根強いというシナリオを前提としたものだ。

今回のFOMCは、10日に発表される4月のCPIやPPIなどの物価指標が明らかになる前に開催された。4月分の物価動向がどのようになっているかのデータの裏付けがない中で、FRBは金融政策を決定しなければならず、今後については「データ次第」という姿勢を崩すことはできなかった。

一方、FRBは地方銀行の破綻が相次ぐ中でも銀行システムの健全性を強調、利上げの根拠の1つとした。だが、もしインフレ圧力が今後も高いままなら、どうするのか。10日発表予定の物価指標など、今後の経済指標次第では、再び長期金利が上昇、株価にも調整圧力が強まることになりそうだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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