エンジン不正の日野自動車が抱える「3つの課題」 不正発覚から1年、信頼回復への険しい道のり

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第3は電動化戦略の描き直しだ。

決算発表の同日、日野は2018年から続いたフォルクスワーゲン(VW)傘下のトラックメーカー・トレイトン社との「戦略的協力関係」を解消すると発表した。カーボンニュートラルに向けの電動化や自動運転などの技術開発を目的とし、2019年には共同購買の合弁会社も設立していた。

日野の親会社であるトヨタ自動車のライバルでもあるVWグループと組んだのは、次世代先進領域への取り組みに対する危機感が強かったからだが、具体的な成果が得られたようには見えない。

このタイミングでの解消について小木曽社長は、「1対1の関係を強めるよりは、この契約を解消して必要に応じた時にしっかりと協業したほうがいい」と説明するが、電動化や自動運転で巻き返すシナリオは示されていない。

昨年にはエンジン不正を理由として、トヨタが主導しいすゞなどが出資する商用車のCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術の開発会社Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)から除名されてもいる。次世代技術の開発に全力を挙げる必要があるにもかかわらず、需要が細っていくエンジンの法規対応に追われること自体が日野にとって大きな足かせだ。

2025年の30万台目標は取り下げ

日野はグローバルの販売のうち4分の3を国内と東南アジアが占める一方、約90カ国でトラックの販売を手がけている。不正発覚を受けて立ち上げた第三者委員会による調査報告書には、「現有の開発リソースではやりきれない製品ラインナップ・販売地域を抱えている」「会社の身の丈に合わない」といった社員の声が記されている。

今回は「目指すべき姿」として、2018年に発表した2025年の中期経営計画のうち、販売台数30万台といった数値目標を取り下げ、商品とサポートの品質徹底を打ち出した。昨年来、組織改革にも着手しているが、あらためて人材育成を強化する方針も示した。

日野の業績のピークは2014年3月期の891億円(最終損益)、販売台数では2019年3月期の20.3万台である。早期の回復は難しく、そもそも一足飛びの業績回復を目指せる状況にもない。

まずは車両供給の正常化と社内外の信頼を取り戻すことが最優先だ。同時に、電動化・自動化の投資も手を抜くことはできない。日野の経営はまだしばらく悪路が続きそうだ。

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井上 沙耶 東洋経済 記者

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いのうえ さや / Saya Inoue

商用車・部品メーカーを担当。大学時代は写真部に所属し、社会学を中心に学ぶ。趣味は、漫画を読むこと、映画のサントラを聴くこと。

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