5月の広島サミットは「G7」の斜陽化を決定づける 世界の多極化はもはや止められない

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ウクライナ問題での中国のポジションは、アメリカなど北大西洋条約機構(NATO)諸国がウクライナに先進兵器を供与し続けていることが、戦争長期化につながっていると批判、人道危機を回避するため、停戦と和平交渉の開始を提唱するのである。

中国政府が2023年2月24日に発表したウクライナ紛争仲裁案は、①主権、独立、領土保全の尊重、②冷戦思考の放棄、③当事者による直接対話を通じて全面的停戦の実現、④人道危機の回避、⑤原発攻撃の停止、⑥核兵器の不使用、⑦対ロ制裁の停止など12項目からなっている。

バイデン氏からすれば、マクロン氏の中国案支持はG7の結束にひびを入れる「裏切り」と映ったに違いない。それを承知で、あえてコミュニケに明記するフランスのしたたかさ。アメリカ一極支配に与しない「戦略的自律性」の面目躍如だ。

マクロン氏は2021年のイギリス・コーンウォールサミットでも、「G7は中国敵対クラブではない」と明言、ドイツ、イタリアとともにG7共同宣言に台湾問題を初めて盛り込むことに抵抗した。結局は米日と議長国のイギリスの説得を受け入れ、閉幕間際にようやく盛り込みに同意するという綱渡りを演じた。(<「民主」に寄りかかって国際政治を図る危うさ>参照)

原発処理水放出にドイツが反対

外相会談とほぼ並行し、札幌で開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合でも足並みの乱れがあった。争点は、東京電力福島第一原子力発電所からの汚染水(処理水)の海洋放出だ。日本政府は当初、海洋放出について「透明性のあるプロセスを歓迎する」との文言を共同声明に盛り込もうとした。

しかし、アメリカを除くG7構成国の多くが「個別事情」と難色を示し、ドイツはすべて削除するよう要求し盛り込みは失敗に終わった。にもかかわらず西村康稔・経済産業相は4月16日の閉幕記者会見で「海洋放出を含む廃炉の着実な進展、そして科学的根拠に基づくわが国の透明性のある取り組みが歓迎される」と口頭説明したのである。

これを聞けば、海洋放出する計画をG7があたかも「歓迎した」ととれてしまう。西村発言を隣で聞いていたドイツのレムケ環境相は、間髪おかず「放出歓迎ということはできない」と反論。「スタンドプレー」を意識したとみられる西村発言については、外務省内からも「やりすぎ」と批判の声が上がった。

この2つの会合やマクロン発言を点検すると、広島サミットでもウクライナや台湾の主要議題で、G7結束に向けた岸田氏の調整能力と差配が試される。2023年1月の施政方針演説で岸田氏は、サミットに向け「力による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる地域においても許されない。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとの強い意志を世界に発信する」と、ウクライナと台湾問題を主要議題にすると力んだ。

そして「世界が直面する諸課題に国際社会全体が協力して対応するためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウス(途上国)に対する関与を強化する」とも述べ、南半球の途上国を意味する「グローバルサウス」を取り込む姿勢を打ち出した。

グローバルサウスの数はインド、インドネシア、ブラジル、南アフリカなど地域大国を含め100カ国以上に上る。アメリカや日本が注目するようになったのは、国連を舞台にロシアに対する各種の非難・制裁決議にこれらの諸国が賛成せず、棄権に回ったことが契機だった。

岸田氏は広島サミット拡大会合に8カ国の非メンバー国のリーダーを招待しているが、このうちインド、インドネシア、ブラジル、ベトナムなど6カ国がグローバルサウスに属し、拡大会合では食料・エネルギー安全保障問題を取り上げるという。

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