イギリスが「トイレは男女別」を義務付けた理由 活発化するトランスジェンダーをめぐる議論

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政府の定義によれば、「性的に中立なトイレ」とは、個室が設けられていると同時に手を洗う場所や待つ場所をすべての人が共有できるようになっている施設である。「ユニセックス」あるいは「ユニバーサル・トイレ」とは、すべての人が使うことができる、スタンドアローン型のトイレである(イベント会場などに設置される簡易トイレ、個室だけで完結するトイレなどをイメージ)。

ロンドン近辺では、筆者はまだ「ジェンダー・ニュートラル」と書かれたトイレを実際に使ってみたことはない。ただ、昨年秋、この点で一歩進んでいるスコットランド・グラスゴーの美術館を訪れた時、「男性」「女性」「ジェンダー・ニュートラル」の3つのドアがあるトイレ施設を体験した。

「ジェンダー・ニュートラル」のドアを開けてみると、便器が置いてあるだけの小部屋で、いわゆる「スタンドアローン形」だった。イギリス政府の定義に照らせば、「ユニバーサル・トイレ」に当たる。「女性用」では、個室が並び、その前に手洗い場所がある、公共の建物でよく見かける形となっていた。

「学校でトイレを使ったことはない」

今後、少なくとも3つの種類のトイレを設置することが望ましいとみられるが、現状では揃っていない施設も少なくない。

「学校でトイレを使ったことはない」。昨年4月、イギリスのスコットランド・ファイフの中学校に通うフェリックス君はBBCニュースにこう語った。その理由は、「自分はトランスだから」。

フェリックス君の学校には男子用、女子用そして障害者用のトイレ・更衣室があり、どれを使ってもいいという。しかし、この選択肢はフェリックス君には適さない。「女子用に入れば、女生徒たちが『なぜ男子なのにここに来るの』という視線で見るし、男子用に行けば、『なぜ女子が男子用を使うのか』と思われる。障害者用を使えば、障害者のスペースを自分が取った気持ちがする」。

学校側は「建て替えるわけにはいかない」として、現状のままで対処するようフェリックス君に伝えたという。

「LBGTQ」(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、特定の枠に属さないクイアなどの頭文字を合わせた、性的マイノリティを表す)という言葉がイギリスで一般的な語彙となって久しいが、近年、議論が活発化しているのがトランスジェンダーについてだ。比較的新しい概念のため誤解も多く、社会もどのように対応するべきなのか、右往左往している。

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