イギリスが「トイレは男女別」を義務付けた理由 活発化するトランスジェンダーをめぐる議論

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反対派は、法律で性の変更が簡単にできるようになると、男性として生まれた人物が「自称女性」としてこれまでは女性専用となっていた空間に入りやすくなり、違和感や脅威を感じる女性がいる、と主張する。小説ハリー・ポッターシリーズで著名な、スコットランド在住の作家JKローリングもこれを支持。女性の権利の擁護組織も反対を表明し、スコットランド民族党(SNP)による政権内では法案に賛同できないと辞任する議員が複数出た。

それでも、当時の自治政府首相ニコラ・スタージョン氏が強く推したこともあって、昨年12月、スコットランド議会は法案を可決。ヨーロッパではアイルランド、デンマーク、ノルウェー、ポルトガル、スイスなどで自己申告での性別変更手続きが可能なため、ヨーロッパ大陸並みになった、ともいえる。

ところが、今年1月中旬、中央政府が待ったをかけた。スコットランドの法律がイギリス全体の法律に抵触する場合、政府はその取り消しを求めることができる。そこで、スコットランドの性別変更の法的手続き簡易化法案の取り消しを求める決定を下したのである。中央政府によるこの権限が行使されるのは、今回が初めてだ。

4月21日、スコットランド政府は中央政府による法案取り消し決定の合法性について、民事控訴院(スコットランドの民事事件を扱う最高裁判所)に提訴し、戦う姿勢を崩していない。

女性刑務所に入れられた元男性

中央政府と自治政府の間で性別変更簡素化法案の是非について不協和音が響いていた1月末、元男性のトランス女性がスコットランド内で1つしかない女性専用刑務所から男性専用の刑務所に移送されたことが報道された。

2016年と2019年、スコットランドの第2の都市グラスゴーで女性らに性的暴行を働いたアダム・グラハムは、今年1月の裁判が始まるまでにホルモン治療などを受けて身体を女性に転換させた。子供時代から自分がトランスジェンダーであると認識してきたという。名前もアダム・グラハムからイスラ・ブライソンに変えた。

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