これだけで済まない欧米金融不安「次の危機の芽」 不動産ファンドの資金流出が投げ売りを招く

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ちなみに、ECBはアメリカの大手資産運用会社ブラックストーンの不動産投資信託(REIT)である「ブラックストーン・リアル・エステート・インカム・トラスト(BREIT)」が最近、急増する解約請求を制限しなければならなかった例を挙げ、類似の事案が今後も増えてくる可能性を指摘している(英国でもそのような光景が出始めていることを指摘している)。

当然、こうして窮地に陥ったファンドは流動性確保のため保有不動産の売却はもちろん、資金調達にも勤しむため、市場全体の資金調達コストは押し上げられる。後述するように、それは将来的な利下げ可能性を高める話になる。

部分的に現実化しつつある危機

ユーロ圏において商業用不動産(CRE)と不動産ファンドは過去10年で猛烈な伸びを示してきた。すでにCRE市場のシェアが10年で倍増したことは言及したが、絶対額で見た場合、不動産ファンドの純資産総額は2012年から2022年の10年間で、3230億ユーロから1兆40億ユーロへ3倍以上に膨らみ、うち80%がオープンエンド型(つまり常時解約可能)という。

この所在地を国別に見た場合、不動産ファンドは5つの加盟国(ドイツ、ルクセンブルク、フランス、オランダ、イタリア)に集中している模様だが、直接的に不動産投資をする形態以外に債券など金融商品の形態で保有している場合もあるため(ECBによれば30%程度)、商業用不動産や不動産ファンドの不安定化がこれらの国々だけで限定されるとは限らない。

商業用不動産市場の不調はパンデミックによるリモートワークやeコマースの隆盛、その他行動様式の変化が真っ先に指摘されるものの、その終息と入れ替わるように主要国で利上げが行われ、資金調達コストが上昇し始めたことも無視できない。

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