アメリカが「建国の理想」ゆえに自壊する理由 自由民主主義の維持に潜む恐怖のパラドックス

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自分の権力欲を満たすべく、くだんの心情をあおるのが「暴力対決仕掛人」です。かくして人々は「(対立勢力と)妥協の余地など絶対にないと信じ込む」のですが(128ページ、日本語版の該当箇所170ページ)、これを大いに促進するのがSNS、つまりソーシャルメディア。

SNSにおいては、不正確な情報、ないし純然たるウソやデマも容易に発信できますし、それらがあっという間に広まってしまう。さらにアルゴリズム機能によって、自分が「見たい」「聞きたい」「信じたい」と思う情報が、優先的に提示されます。

ウォルターが指摘するとおり、民族主義仕掛人や暴力対決仕掛人にとって、SNSは社会全体に向けた「拡声器」のようなもの(215ページ、日本語版の該当箇所272ページ)。だからこそ、蜂起がより容易、かつ頻繁に起きるようになったのです。

内戦のシナリオは1つではない

ならば現在のアメリカで、没落に直面し、絶望に駆られた社会集団は何か?

じつは白人、とりわけ学歴の低い人々。

いわゆる無名の庶民です。

 

これらの人々はもともと「ロマンティックに美化され、民主主義の屋台骨などと位置づけられるものの、自己主張の機会など、じつはほとんど得られない」状況に置かれていました(デイヴ・マーシュ『BORN TO RUN: THE BRUCE SPRINGSTEEN STORY』、ドルフィン・ブックス社、アメリカ、1979年、155ページ。拙訳)

国が繁栄していれば、それでも我慢できるでしょうが、過去30年あまり、彼らの生活水準は一貫して下落しています。

駄目押しというべきか、移民による人口構成の変化のせいで、いずれ白人は多数派ですらなくなる恐れが強い。

ずばり八方塞がりです。

そしてアメリカでは、市民が大量の武器を所持している。

 

内戦の危機が高まるのも、必然の帰結ではありませんか!

というわけで、第6章と第7章では、来たるべき内戦の予測シナリオと、その際に社会がいかなる様相を呈するかが論じられるのですが……。

 

これについては紹介を控えましょう。

2021年1月、大統領選挙の結果を不服としたトランプ支持者が連邦議会を襲撃して以来、アメリカでは「新たな内戦」をテーマとした本が少なからず出版されており、予測シナリオにしてもいろいろあるためです。

実際、わが講座『2025年、日本が迎える巨大な分岐点』では、ウォルターのものも含めて5つのシナリオを紹介しました。

本書に登場するシナリオを金科玉条のごとく思っていると、思わぬところで足をすくわれるかもしれません。

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