「いい睡眠」「悪い睡眠」脳内で起きる圧倒的な違い 翌日のパフォーマンスが大きく違う納得理由

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これまで、脳にはリンパ系が通っていないため、そうした脳の老廃物の除去がどのように行われているのかについては解明が進んでいませんでした。しかし、近年、リンパ系に代わり、神経細胞の情報をモニターしながら神経細胞のシナプス形成をコントロールしている「グリア細胞」が、脳の老廃物除去に関与していることがわかってきました。

グリア細胞の表面には水を取り込むシステムがあり、そのシステムがリンパ液と似た「脳脊髄液」を脳細胞内に呼び込み、細胞内を流れることによって、老廃物を洗い流す――この脳のゴミを除去するシステムが脳の働きに大きく影響しているのです。

睡眠習慣を見直して脳のデトックスを

このグリンパティック・システムは、日中にも機能していますが、睡眠中に最も活発に働くことがわかってきています。つまり、毎日、質のよい睡眠をとる習慣がついているだけで、無理なく脳のデトックス効果が期待できるというわけです。

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将来的には、グリンパティック・システムの解明がさまざまな疾患の予防や治療につながる可能性が期待されています。アルツハイマー病やパーキンソン病など、脳に老廃物や特定の物質が蓄積する神経変性疾患の治療や薬の開発にも、このグリンパティック・システムの働きが重大なヒントになることは間違いありません。

睡眠中に最も活発に働くこのシステムの恩恵に与りたければ、毎日、質のよい睡眠をとること。脳のデトックス効果は睡眠習慣を改めるだけで叶う最高のギフトと言えるでしょう。

このほかにも、睡眠を犠牲にする人生から睡眠を大切にする人生へ舵を切ることで得られるメリットは数え切れません。最高のリターンを得るために、ご自身の睡眠を見直し、睡眠の優先順位を高めるマインドチェンジを試みてはいかがでしょうか。

西野 精治 スタンフォード大学医学部精神科教授、睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長

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にしの せいじ / Seiji Nishino

医師、医学博士、日本睡眠学会専門医。大阪医科大学卒業。1985年大阪医科大学大学院より新技術開発事業団早石修プロジェクト出向。1987年スタンフォード大学留学。2019年ブレインスリープ創業、2021最高研究顧問就任。2022年NOBシフトワーク研究会設立、会長就任。著書に「睡眠負債」の実態と対策を明らかにしベストセラーとなった『スタンフォード式最高の睡眠』(サンマーク出版)、『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』(PHP新書)、『睡眠障害』(角川新書)、『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』(文春新書)、『スタンフォードの眠れる教室』(幻冬舎)、共著に『最高のリターンをもたらす超・睡眠術』(大和書房)等。

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