日米の株価が今後も下落基調にあると見るワケ アメリカでは銀行不安とは関係なく消費が悪化

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このように個別性が強い経営不振ではあるが、根拠のないうわさによるものであったとしても、「あちらの銀行もこちらの銀行もつぶれるかもしれない」と皆が思えば、預金者が一斉に預金の引き出しに押し寄せ、本当の金融危機になるかもしれない。

こうしたパニックの恐れに対しては、多くの手が打たれている。詳細は避けるが、SVBについては、預金保険の上限(25万ドル)を超える部分も含め、預金全額が保護されることとなった。ジャネット・イエレン財務長官は3月21日に、「小さな金融機関が預金流出に見舞われ、それが広がる危険性がある場合には、同様の措置(預金の全額保護)が正当化される可能性がある」と講演で語り、不安の鎮静化に努めている。

このほか、連銀はBTFP(Bank Term Funding Program)という仕組みを創設し、個別行で預金の引き出しがかさめば、それに対応するための資金を、証券担保をとって融資する(結果として手持ちの満期保有予定の債券を、市場で売却する必要がなくなる)こととした。

以上からもわかるように、足元の銀行不安は個別性が強く、全体に広がるおそれは限られている。心理的なパニックが膨らむ展開の中でも、当局は抑え込みを迅速に行っているといえよう。「銀行の経営不安の行方が世界市場の命運を握っており、それによって株価が上がるか下がるかの方向性が決定される」とは考えない。

アメリカでは個人消費が一段と悪化

では、これからの世界株価を何が動かしていくかといえば、アメリカの景気と企業収益の悪化だ。それはアメリカの株安とドル安をも引き起こし、日本を含むその他の主要国にも悪影響を与えよう。

アメリカ経済全体のうち、個人消費は7割弱を占める。その個人消費にはすでにじわじわと暗雲が立ち込めているが、さらにがくんと悪化する事態に向けて、徐々に「仕込み」が進みつつある。

すでに個人消費や、その背景となる雇用市場の状況については、これまで当コラムで何度も解説してきたので、繰り返しをできるだけ避け、最近判明した事項に限って述べよう。

前回のコラム後に公表された主要な経済統計では、3月15日に2月の小売売上高が発表され、1月分は前月比3.0%増と大きく増えていたものの、2月分は同0.4%減と反落した。

角度が異なるデータも眺めると、アジア18カ国からアメリカ向けのコンテナ船の荷動き量は昨年9月から前年同月比マイナスとなっており、直近の今年1月は同20.1%減と大きな落ち込みだ。

この1月分において、前年同月比でのマイナス寄与度が大きいものを品目別に見ると、(1)家具寝具など、(2)繊維類およびその製品、(3)遊戯用具・スポーツ用品が押し下げ寄与のトップ3で、いずれも消費財であり、アメリカの個人消費の悪化がうかがえる。

さらに、3月以降の消費関連統計は公表を4月まで待たないといけないが、そこでかなり悪いニュースが流れる「仕込み」が進んでいると考える。

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