日銀総裁、「失敗したと言われる筋合いはない」 2年程度で2%の物価目標を堅持
[東京 8日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は8日の金融政策決定会合後の記者会見で、2年程度で2%の物価目標を実現できるとの見通しに変化がないと強調した。足元の物価は前年比横ばいにとどまっており2%にほど遠い状況だが、秋以降に物価上昇が加速するとの見解を堅持した。
昨年10月の追加緩和の効果で、直近の物価上昇率が縮小しても人々の物価観である予想物価上昇率は下押しされていないと述べた。
昨年10月は足もとの物価下落によりデフレマインドの転換が遅延するリスクを理由に追加緩和に踏み切ったが、現在は、そのようなリスクは低下したとの認識を示した。
決定会合では年間80兆円資金供給量(マネタリーベース)と国債保有残高を増やす現行政策の維持を決めた。景気は「緩やかな回復基調を続けている」との従来判断を維持した。
昨年10月の追加緩和以降、追加緩和前の政策(マネタリーベース年間60─70兆円増額、国債残高50兆円増額)への回復を主張していた木内登英委員が、年間45兆円のマネタリーベース・国債増額に、変更するよう提案し反対多数で否決された。
午後零時半過ぎの決定内容公表後、為替市場は1ドル=120円台から119円台に円高が進んだ。一方、日経平均株価は瞬間40円程度下げた後は反転上昇し、15年ぶりに1万9800円台を付けた。
失敗したと言われる筋合いない
黒田日銀が進める巨額の国債買い入れを柱とした「量的・質的緩和政策(QQE)」は今月4日でスタートから丸2年を迎えたが、当初のスローガン通り2年で2%の達成は実現できていない。
しかし、会見で黒田総裁は「2年程度を念頭にできるだけ早期に物価安定目標を実現する方針に変化はない」とし、2015年度を中心とする時期に目標達成を実現する姿勢に変化がないことを強調した。
潜在的な成長率とのかい離を示す需給ギャップはほぼ解消されており、「長い目でみた予想物価上昇率も上昇している」とし、「原油安の影響がはく落し、今年の秋以降、物価上昇率はかなり加速していく」との見解を堅持した。
春闘の賃上げ率が0・7%前後にとどまっているが、「中央銀行として春闘に圧力をかけるつもりはまったくない。失敗したと言われる筋合いはない」と反論した。
日銀が追加緩和に踏み切った昨年10月と比較して原油価格は大きく下落しており、政策運営の目安とする消費者物価指数(生鮮除く、コアCPI)も実質前年比0%にとどまっている。
しかし、黒田総裁は「追加緩和の効果もあり、実際の物価の低下が予想物価上昇率の低下を通じて賃金や価格決定に影響を与えることは避けられている」と指摘。昨年10月とは異なり、デフレに戻るリスクが現時点で少ないとの見解を示した。
債券価格から試算できる市場関係者の予想物価上昇率であるBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率<JP0019BEI=JBTC>)は「原油価格が下落する過程で若干下がり、このところ上がってきている」が、企業やエコノミストを対象としたアンケートで測る中長期の予想物価上昇率は「昨年夏以降、足元の物価上昇率が鈍化してもしっかりしている」と指摘した。
物価の基調的な動きを規定する要因のひとつである個人消費は、昨年4月の消費税率引き上げ以降、回復が遅れている。総裁は「消費税の影響で実質雇用者所得が前年比でマイナスになっていたが、この春から影響はなくなる」、「春闘のベアは0.7%程度と昨年の2倍近くになっている。今年は中堅・中小企業にも及んでいる」と指摘。「雇用者所得は着実に伸びているし、これからも伸びていく」と楽観的な見通しを示した。