地震、津波、火災の三重苦に、原発の風評被害まで。孤立感高まるいわき市久之浜地区を歩く【震災関連速報】
関東から東北を貫く国道6号線を走ると、茨城県から福島県に入るや、周囲の風景が大きく変わる。営業していないコンビニエンスストアが際だって目立つようになるからだ。福島県有数の都市、いわき市の中心部でも、その実情は変わらない。
「原発の風評被害です。輸送業者のなかに、いわき市内に入ることを避ける傾向があり、コンビニエンスストアに十分に品物が入らないのです」
いわき市災害対策本部で仕事に当たるいわき市役所の広報担当、久保木さんは、憤りを隠せないという表情でこう説明する。コンビニエンスストアが開店しても、不足している品物を買い求める人たちが集まって午前中には品切れ。店を閉めるしかないのだ。
いわき市は、北部のわずかの地域が福島第一原発の30キロメートル圏にある。そのため、「いわき市は原発に近い、ということで風評が立ってしまっている」と言う。放射線の測定値は落ち着いてきているにもかかわらず、風評は根強いようだ。
品不足はガソリンにも言える。3月27日朝、市内中心部、国道6号線沿いのガソリンスタンドには給油待ちの列が1キロメートルにも及んでいた。市街からやや離れたガソリンスタンドでは、「供給される量は通常の半分の5000リットル。これを1人20リットル、3000円を上限に販売している」(店主)というが、営業は半日ももたない。緊急車両用に一定量を残して店を閉めているが、中には「偽造の緊急車両証明書も出回っている」ことから、今は、非常給油も警察、消防関係の車両だけに限定しているという。
いわき市を北上し、原発から40キロメートル程度の距離ととみられる、久之浜地区まで行くと、幹線から街に向かう道は車両通行止め。「捜索中のため」と通行止めの看板には書かれている。そこで、徒歩で海辺に隣接する街に入ったとたんに、風景は一変した。がれきの山というか、がれきしかない。見渡すかぎりのがれきだ。
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「着のみ着のままで津波から逃げたので、自分の服を探している」。
その一画にただずんでいた水産業者・熊木俊男さんは、そう話しながら、がれきの中からセーターを一枚探し出し、「俺のセーターだが、家から、こんなに離れたところにあるとは」と愕然とした。しかも、熊木さんが指さした辺りには、がれき以外、何もない。「家も工場もみんなつぶれたから」だ。
同地域では、地震、津波だけではなく、直後には火災も発生した。したがって、がれきは黒く焼け焦がれている。街を守る防波堤の高さは4~5メートルはある。それを越えて大津波が街を飲み込んだ。
「津波の直前、まるで海の底がみえるほど潮が引いた。60年ここに住んできたが、あんなことは初めてだった」と熊木さん。
みんな、急いで高台に逃げたが、第1波が引いてから街に下りていった人たちが第2波に飲み込まれてしまった。熊木さんも兄弟2人が犠牲になった。「まだこれから大勢の犠牲者が見つかる。不明な人が多いから」と熊木さんは変わり果てた街を遠望した。