国産ゴジラ、「庵野総監督」はアリかナシか "アニメ界の巨匠"起用で高まる期待と不安

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対して、2014年公開のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』は、クオリティ面でも絶賛され、全世界で興行収入5.28億ドル(約560億円、1ドル=106円で計算)をたたき出したが、日本国内の興行収入は32億円にとどまった。つまり、世界でのゴジラ人気の高まりとは裏腹に、日本での人気はピークアウトしている可能性がある。

第3の懸念材料は、2014年のハリウッド版ゴジラの存在である。制作費1.6億ドル(約170億円)を投じてフルCGで作り上げたゴジラが街を破壊するシーンは、着ぐるみでは到底表現できないリアリティがあった。

庵野氏も「世界資本に比べると制作費も制作時間も極端に少ない」と、ホームページ上でコメントしている。「庵野ゴジラ」が着ぐるみを使った特撮主体のゴジラになるのかCGゴジラになるのかは、まだ明かされていない。だが、リアリティあふれる映像表現を作ろうとしたら、特撮だろうとCGだろうと多額の費用がかかるという点では変わらない。

東宝はどこまで冒険できるか

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生誕60年を記念して、東宝スタジオに描かれたゴジラの壁画

2014年のハリウッド版ゴジラ並みに30億~40億円の国内興行収入を想定し、さらにアジアでの公開やDVDなどの2次収入で稼ぐことも織り込めば、30億~50億円程度の制作費は期待できるかもしれない。

その一方で、2000年代に制作された東宝のゴジラシリーズの興行収入が平均10億円台にとどまっていることを考えると、東宝がどこまで冒険できるかという面もある。

ハリウッドと日本の資本力の差はあまりにも大きすぎる。ただ、「ゴジラが存在する空想科学の世界は、夢や願望だけでなく現実のカリカチュア、風姿や鏡像でもあります」と庵野氏はコメントしている。つまり、映画の世界観を工夫することで、彼我の差を埋めることができるかもしれない。極端な話、ゴジラの登場シーンが少なくても、そこにインパクトがあれば観客は満足する。

アニメでは、想像の斜め上を行くストーリー展開で、見る人の度肝を抜いてきた庵野氏。希代のストーリーテラーは、いかにゴジラを表現するのか。そして、その要求に東宝がどこまで付いていけるか。2016年夏の公開が待ち遠しいかぎりだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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