「男がおごるべき論争」日独でこれだけ違う価値観 ドイツの女性は「おごられるのは気が重い」

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1年前の2022年2月、Twitterで「デートでサイゼリヤはありかなしか」というテーマについて熱い議論が交わされていました。発端は「サイゼで喜ぶ彼女」というイラストが投稿されたこと。

イラストには幸せそうな笑顔を浮かべながらサイゼリヤで食事している女性が描かれていましたが、「デートでサイゼリヤに連れて行くなんてありえない」という声が上がり、それに対して「それはサイゼリヤに失礼」などといった反論があり、延々と議論が繰り広げられました。これもドイツではあまり見かけることのないたぐいの論争です。

日本では「男性はデートの際に惜しみなくお金を使うべき」というバブルの頃のような感覚がまだまだ残っている気がします。ドイツの感覚だと、たとえば「2人とも歩くのが好き」ならば、「初デートであっても山歩きやちょっとした登山に誘う」のは「あり」なのですが、筆者がそのことを日本人の女友達に話したところ、ドン引きされてしまいました。

彼女曰く「好きな女性を初めてのデートで山歩きに誘うなんてお金を使いたくないだけじゃん。山に行ったらお金はかからないし安上がりだからね」と言われてしまいました。

リーズナブルなアクセサリーはありなのか

30歳の女性が恋人からのクリスマスプレゼントだと思われるジュエリーボックスの写真をツイッターに上げ、議論が巻き起こったこともあります。

男がおごるべき
クリスマスプレゼントにふさわしいか議論になったアクセサリー

そのジュエリーブランドがリーズナブルな価格帯のものと知られていることから、ネットでは「30歳の女性にこの価格帯のものをあげるのはおかしい」「学生じゃあるまいし、交際を真剣に考えている女性に対して失礼」などの声が上がりました。

筆者もリアルタイムでこの投稿を見ていました。お店の人がラッピングした可能性が高いとはいえ、こんなにも可愛いらしいプレゼントをネットに上げ、「いただいた身でこんなことあれですが」と謙遜を装いつつ恋人からのプレゼントを公衆の面前にさらすという行為に違和感を覚えました。

そもそもドイツでは「何歳の女性には、これぐらいの値段のアクセサリーがふさわしい」という感覚はありません。もしもドイツで30代の女性に1万円や2万円のアクセサリーを贈ったとしたら本気で喜んでもらえる可能性は限りなく高いでしょう。

女性の年齢によって「ふさわしいもの」が暗黙の了解で決まってしまうのは、一見すると女性に有利なようで、結局は「女性を年齢で判断すること」につながっている気もします。多様性が重んじられるようになったいま、「女性は何歳までに結婚しなければいけない」「何歳までに出産しないとおかしい」といった発言はタブーだとされています。「何歳の女性にはいくらのモノをプレゼントとして贈らなければならない」となると結局は女性を年齢で判断するといった価値観から逃れることはできないのではないでしょうか。

ところで日本に住む知人のドイツ人女性に冒頭の「おごる」騒動についてどう思うか聞いてみたところ、女性は「日本に来たばかりの頃、日本の男性の気前のよさにびっくりした」と話しました。筆者も同じように感じています。もしかしたら日本にも「ご飯をおごったからには……」と下心のある男性もいるのかもしれませんがドイツほどあからさまでない気がします。

そんなこんなで日本とドイツ、それぞれに長く住んだ筆者は、男性がおごるべきだとは思いませんが、おごってもらうと素直に嬉しいです。あ、お店はサイゼリヤでも構いません。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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