ジブラルタル海峡「鉄道トンネル」は実現するか 欧州とアフリカを直結、計画は40年以上前から

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ところで、ジブラルタル海峡の北岸である欧州大陸側には、海峡の名にもなっているイギリス領ジブラルタルがある。スペインは長年にわたってジブラルタルの”返還”を求めているが、イギリスは応じるそぶりをまったく見せていない。

そんな背景もあり、スペインとジブラルタルの間には公共交通機関によるリンクは存在せず、相互乗り入れできるタクシーさえもない。自家用車やトレーラーなどは、検問を受ければ「国境」を渡れるが、自由に人が行き来できる欧州にあって、ある種異質な土地となっている。滑走路と街のメイン道路が直交していることで知られるジブラルタル空港は、英国との間のみ直行便があり、マドリードやバルセロナといったスペイン諸都市とを結ぶ便はない。

ジブラルタル ザ・ロック
イギリス領ジブラルタルのシンボルである岩山「ザ・ロック」。ジブラルタルとスペイン国内を直通する公共交通機関はない(筆者撮影)

それでもジブラルタルを統治するイギリスは、北アフリカの国々との協力関係を強化する観点から、「モロッコとを結ぶ海底トンネルの実現」を望んでいると、スペイン紙ラ・ラゾンは報じている。モロッコ側もこの海底トンネルプロジェクトを通じて、より多くのイギリス人観光客や投資家を惹きつけたい、さらにはイギリス市場にモロッコ産農産物を売り込む方法を見出したいと考えているようだ。

モロッコからパリへ直通列車?

海底トンネルが完成し、アフリカ・欧州間の鉄道連結が実現した場合についても想定は行われている。例えば、モロッコの首都ラバトとスペインの首都マドリード間は4時間、さらにラバトとフランスのパリを8時間余りで結ぼうという野心的な研究もある。

ただ、モロッコ鉄道の軌間は欧州大陸で一般的な標準軌(1435mm)なのに対し、スペイン側の上陸地点となるアルヘシラスには、スペイン独特の広軌(1668mm)の在来線しかない。スペインには異なる軌間を直通できる”元祖フリーゲージ車両”の「タルゴ」があり、そのままでも直通はできそうだが、同国も高速鉄道網は標準軌であり、フランスにも直結している。ジブラルタル海峡に向かう線路も標準軌に更新される可能性もあるだろう。

モロッコは2022年のサッカーW杯カタール大会で準決勝まで勝ち上がり、世界に大きなインパクトを与えただけでなく、アフリカやアラブ諸国への大きな力となった。欧州からモロッコへの訪問客も増加傾向にある中、海底トンネル計画の前進には今が絶好のタイミングなのかもしれない。モロッコ政府首脳は、海底トンネルプロジェクトが「未来を築く機会を提供する」とし、スペインの間に「真の革命をもたらす」との期待感を示す。夢物語で終わらないよう、関係各国の動向を見守りたい。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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