「年収1000万円前後は損?」重い教育費負担の実態 授業料は値上げ、所得制限にかかると家計圧迫

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とはいえ、これらの状況を俯瞰してみると、「児童手当」の所得制限にかかる境界となる年収960万円~年収1200万円前後の世帯ですと、あまりゆとりはないという人もいるはずです。さらに都市部に住んでいて生活コストが高い、高額な住宅ローンを抱えているといった教育費以外の経済的負担があれば、厳しさは増すでしょう。

少し古いデータになりますが、子育て世帯を対象に「児童手当」の使い道を聞いた平成24年の厚生労働省の調査をみると、受給した「児童手当」は子どもの教育費や生活費、将来のための貯蓄や保険料に充てているという人が大半です。

高所得世帯でも「児童手当」は重要な資金

世帯年収1000万円以上の世帯に絞ってみると「特に使う必要はなく、全部または一部が残っている」という人が約17%いて、この割合は所得が低い世帯に比べると高いのですが、教育費に充てたり、子どもの将来のために貯めたりする人が多いことは共通しています(厚生労働省「平成24年児童手当の使途等に係る調査」)。

当時も現在と同じく、夫婦と子ども2人の場合で年収960万円相当以上の世帯は子ども1人あたりの支給額が月5000円とされていましたが(年収1200万円以上の支給停止はなし)、この所得制限の対象になる世帯でも、「児童手当」を養育のための重要な資金としていたことがうかがえます。

なお、平成22年度から2年ほどの民主党政権時代には、「児童手当」に代わり所得制限のない「子ども手当」が支給されていましたが、その導入にあわせ、15歳までの子どもを扶養している人に所得税と住民税で適用される「年少扶養控除」が廃止されました。手当の支給に代えて子育て世帯へ増税する形だったわけですが、のちに「子ども手当」が「児童手当」に変わった後も、いまだ年少扶養控除は復活していません。高所得の子育て世代には、支給が少なく税負担は重いままの状態が続いています。

子育て支援策への所得制限をめぐっては賛否両論あり、国の「児童手当」に先駆けて東京都が来年1月頃からの実施を表明した18歳以下の子どもへの月5000円の支給や、第2子の保育料の無償化も所得制限なしとする方針に対しさまざまな意見が飛び交っています。低所得層への支援や待機児童対策など少子化に関わる課題は山積しており、負担と配分は非常に難しい問題です。

ただ、所得制限の是非にばかり注目が集まっている感は否めません。改めて、いまの子育て世代が直面している教育費の現実への理解も重要だと思います。

加藤 梨里 FP、マネーステップオフィス代表取締役

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かとう りり / Riri Kato

保険会社、信託銀行などを経て2014年にファイナンシャルプランナーとして独立開業。家計相談、セミナーや雑誌・ウェブサイトでの執筆を中心に活動。慶應義塾大学SFC研究所上席所員として、健康増進とライフプランの関係をテーマに研究活動も行っている。http://moneystep.co/profile

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