欠員を補充できない教員不足の実情とその背景

学校に本来配置するはずの教員を確保できずに未配置となっている状態、いわゆる教員不足が起き、子どもたちの学びに深刻な影響が出ている。

文部科学省の教員不足に関する実態調査によると、2021年度初めの時点で教員不足に陥った学校は、全体の5.8%に当たる1897校だった。緊急対応で管理職や少人数指導のために配置された教員など、本来は担任クラスを持たない教員が学級担任をしたケースが474件。教科担任がいないために必要な授業を行えないと報告された中学・高校も5月1日時点で計21校に上った。現場教員からは、臨時免許を発行して本来の担当教科外の教員に欠員の出た教科を担当させているといった指摘もあり、数字以上に深刻な事態になっている可能性がある。

これは教職志望者の減少だけでなく、臨時雇用する候補者も不足しているためで、産休や病気休暇、療養による欠員が生じても、それを代替する教員が見つかりにくいのが原因となっている。だが問題の根本には、長時間労働をはじめとする学校現場の厳しい労働環境があることは疑いない。

東洋経済新報社が小・中学校、高等学校の教員600人を対象に行ったアンケート調査では、教員不足、教員のなり手不足の原因(いずれも複数回答)は「長時間労働の常態化」とする回答が7割前後と最多だった。

次いで「新しい教育や保護者対応など業務の肥大化」「休暇が取りづらい」など過酷な労働環境に関わる回答が上位を占めたほか、「給与面の処遇」という回答も多かった。公立学校教員には、時間外手当や休日勤務手当を支給しないことが法律で定められていることから、それが労働時間管理を難しくして長時間労働に拍車をかけているという指摘もある。

教員採用は長年にわたり、少子化を見据えて正規雇用を減らし、当面必要な教員数を非正規雇用の教員で確保するやり方が続けられてきた。何年も正規教員と同様の働き方をしながら非正規雇用に留め置かれる不合理な事態も多発した。さらに、04年に国の基準の教職員給与総額の範囲内で、各都道府県・指定都市が給与額、配置を自由に決められる総額裁量制が導入されて以降は、少人数クラス指導などの拡充のために教員の労働コストを抑えられる非正規雇用教員に頼る傾向が強まった。

ところが、志望者減少で教員採用の“合格率”が高まると、教員採用試験に再チャレンジする“教採浪人”を中心に担ってきた非正規雇用候補者のプールが縮小。一方で、少人数指導や特別支援学級は増加し、必要となる教員が増えた結果、候補者プールが枯渇してしまった。

これは安易に非正規雇用教員に頼ってきた結果と見なすことができ、アンケートでも3割強が教員不足の理由に「非正規雇用への依存」を挙げていた。また、校務処理などのシステムがクラウド化していないために、在宅で仕事を行うなど柔軟な働き方ができないといった課題もある。

こうした教員不足やなり手不足を解消するための対策について聞いた質問では、まずは教員数の拡充、そして給与面など処遇の改善を求める回答が続いた。

残業代“不払い”を合法化する給特法に見直しの動き

現在の給与に満足しているかを尋ねた質問では、6割強が「不満」「やや不満」と回答。給与への満足度は概して高くはない。

この背景には、1971年制定の給特法により、長時間労働が常態化しているにもかかわらず、教員には時間外勤務手当や休日勤務手当が支給されないという事実がある。

戦後、教員には一般労働者と同様に労働基準法が適用されていたが、自発性や創造性が必要な教員の仕事は勤務時間管理が難しいこともあり、時間外手当請求訴訟が相次いだ。これを受けて71年に制定された給特法は、教員の「職務と勤務態様の特殊性」に基づき、月間8時間程度とされた残業時間に相当する月額4%の教職調整額を支給する代わりに時間外勤務手当や休日勤務手当は支給しないと定め、公立学校を労働基準法の残業代支払い義務の対象から除外した。

残業を命じられるケースは、1. 校外実習等、2. 修学旅行等の学校行事、3. 職員会議、4. 非常災害時に関する業務(超勤4項目)に限定され、形式的な残業時間は抑えられているが、それ以外の残業は「自主・自発的」な活動と解釈され、実情を反映していない定額での“サービス残業”が合法化されている。残業代を支払う必要がないので、学校現場ではまともな労働時間の管理も行われてこなかった。

アンケートでは、こうした給特法について「詳しく知っている」「おおむね知っている」と答えた教員は約3分の2。「あまり知らない」「知らない」という教員も約3分の1いた。

教育現場の長時間労働の実態は、教職調整額の根拠となっている月8時間残業をはるかに超えている。2016年の文科省調査では、1週間当たりの学内勤務時間平均は小学校で57時間29分、中学校教諭で63時間20分だった。残業時間は小学校で週18時間44分、中学校で週24時間35分で、月では小学校教諭で過労死ラインの80時間、中学校教諭でそれを大きく上回る100時間超という計算になる。

長時間労働が問題化して教職志望者の確保が難しくなったことを受け、文科省も給特法を含めた教員の処遇、労働環境の見直しに動く。19年の給特法改正では、勤務時間に関するガイドラインを「指針」に格上げしたほか、夏休みなどに休日をまとめ取りできるようにする「一年単位の変形労働時間制」導入を可能にした。しかし、変形労働時間制は不評で、導入のための条例を整備した都道府県・指定都市も一部にとどまる。

6割強が給特法改正、3割弱が給特法廃止を支持 

昨年度に実施した最新の教員勤務実態調査の結果がまとまる今春以降、給特法を含めた教員の処遇はさらに見直される予定だ。昨年12月文科省に設置された有識者らによる「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」で論点整理を進めている。

アンケートで給特法の改正・廃止への賛否について尋ねた質問に対しては約半数が賛成。うち6割強が改正を、3割弱が廃止を支持した。

改正・廃止の賛成理由では「月8時間分の手当ては実態に合っていない」「残業しないと処理できない業務量が固定化されている」「残業手当が出ない中で業務ばかりが増えている」「業務を適性に評価してほしい」といった声が上がった。一方、反対した人からは「長時間労働のほうを解消すべき」「定時でもきちんと仕事をこなす人を公正に評価すべき」という意見があった。また、超勤4項目で時間外勤務が認められる非常災害に関する業務で「8時間以上駆り出されて3200円。避難所運営はボランティア」といった問題提起もあった。

この改正・廃止の理由について、ここでは紹介しきれない声をPDFにまとめた。回答も原文のまま全文掲載しているため、現場の本音がよくわかる内容になっている。無料PDFのダウンロードはこちらから。

給特法の改正内容については、労働基準法適用を除外して時間外勤務手当を不支給としている規定の廃止が約45%。次いで残業手当に相当する給与月額4%の教職調整額の引き上げが約39%を占めた。

給特法が前提とする残業時間月8時間と、教員の勤務実態との乖離は大きい。近年は教員の時間外勤務手当をめぐる訴訟も相次いでいて、給特法の見直しは必然といえる。

しかし、残業手当問題を解決しても、ワーク・ライフ・バランスやキャリア形成に対する意識が高い若者を振り向かせることは難しいだろう。手当の見直しを契機として、職務効率化、職務範囲の見直しも不可欠だ。教員に対する公平・公正な処遇と労働環境の改善を進め、教員のキャリアをこれからの時代にふさわしい魅力あるものにしていくことが望まれている。

調査概要
給特法に関する意識調査
対象:小学校、中学校、高等学校教員600名
平均年齢:51.4歳
対象エリア:全国
調査日:2022年12月

(文:新木洋光、注記のない写真:y.uemura / PIXTA)