アステラス製薬、合併10年で得た手応え 山之内と藤沢薬品の合併は何をもたらしたか

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次の10~20年を見据えて新薬候補群を充実させるために、自社研究にこだわらず、外部からの導入や共同研究も広げていく。

以前は開発後期の新薬候補を買うことが多かったが、大手との獲得競争で巨額の費用がかかる。そこで、開発初期でも面白い特性を持つ新薬候補にも目を向けるようにした。フォーカスする分野も、従来から力を入れている領域に限らず、骨格筋疾患、ミトコンドリア関連疾患などの新しい疾患領域に拡大する。

はたなか・よしひこ●1957年静岡県生まれ。80年一橋大学経済学部卒業、藤沢薬品工業入社。アステラス製薬上席執行役員経営戦略・財務担当を経て、2011年から現職

――ポテンシャルのある新薬候補を早い段階で手に入れるには、目利き力が必要になる。

新しい領域では、専門知識を持った外部のアカデミア(大学や研究機関)やバイオベンチャーなどのリソースも積極的に活用する。過去2年ほどの間に、世界中で共同研究などの提携を10以上行った。

また、社内には最先端の知見を持ち、部門横断的なメンバーからなる「STAR(Strategy Team for Therapeutic Area Reinforcement)」と呼ぶチームが領域別にある。自社のパイプラインと外部から導入したパイプラインや導入候補品などについて、このチームと定期的に評価している。また、STARチームからは普段から「この化合物を導入したい」「この新薬候補はぜひ優先的に研究開発してほしい」といった提案が出てくる。

――現場の社員と直接話すことは多い?

自分の部屋にいても、いちばん新しい話はなかなか入ってきにくい。マンスリーリポート、ウィークリーリポートが上がってきても、それはまとめられたもので、”熱さ加減”がわからない。小さなシグナルを見つけるために、社員のところに行って話をしている。

自分の肌感覚で見る重要さ

医薬品業界では10年先のリスクを今取らないといけない。将来にあるものを、最先端の現場にいる感覚を持って、自分の肌感覚として見ていかないといけない。研究、開発、生産、営業などの現場の温度感がわかるのが、直接コミュニケーションを取る良さだと思う。

――業界の将来に対して今どのような見通しを持っているか。

私たちの業界は、将来的にマーケットが伸びていくし、新たな知見がどんどん出てきてチャンスが広がっている。患者の生活や医療を変えるような製品が、パイプラインに数多く含まれているのが理想だ。

――最近は再生医療分野での取り組みも増えている。

再生医療は次の大きなジャンプの原動力になる可能性があり、力を割いて研究や提携活動を行っている。昨年4月に研究本部長直轄の再生医療ユニットを発足させたが、今年4月には一段進めて研究所に再編する。照準は心血管疾患とがん領域。数年内に臨床試験を始める予定だ。

再生医療は得意の移植領域とも近く、京都大学iPS細胞研究所と共同研究も行っている。日々新しい知見が生まれ始めているチャンスの大きい分野だという意味で、アステラス発足当時のがん領域と似ているかもしれない。

(撮影:尾形文繁)

「週刊東洋経済」2015年3月7日号<2日発売>「この人に聞く」に加筆)

長谷川 愛 東洋経済 記者
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