野田元首相が語る「追悼演説」に秘めた政治の本質 真剣な議論のなかで、折り合うところを求める

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井手:僕の尊敬するギュンター・シュメルダースという財政学者がいます。彼は、拘束がある一方で自由がある、つまり強制と自由がある。そして、法治国家の秩序があるけれども、他方で役人たちの行政の裁量性がある、と言いました。

これ両方矛盾するものですね。矛盾するけれども、両方ともなければならない。どちらか一方だけでは破綻してしまう。決して解決はできないけれども、その間の正しい中庸を見出していくことこそが、国家政治の本質なんだ、そう言っているんです。

野田:私の考え方もそれに近いです。自由と平等は人類が命がけで獲得してきた価値です。両方成り立たなければいけない。二足歩行論だと思っています、人間の足のように。自由が前に出過ぎてバランスが崩れることもある。平等が前に出過ぎてだめなときもある。やはり、どちらかが前に出過ぎたら次を出すという、この自由と平等の交互のバランスを試しながら、倒れないように前に進むのが人類なんだろうと思っているんです。

井手:自由と平等の二足歩行論!私は車の両輪と言いますが、同じことですね。片一方の車輪が大きいとクラッシュしてしまう。権利と義務も、自由と平等も、競争と秩序も。全部同じですよね。

野田:まったくそうですね。

井手:このバランスの最善のベストミックスを探していくのが政治だと。そのための運動を、これから展開していきたいということですね。

追悼演説は「七転八倒しながら言葉を編み出した」

井手:安倍元首相の追悼演説には「言葉」が15回ぐらい出てきます。言葉の力を信じてらっしゃるんだなと思いました。

野田:自分で七転八倒しながら言葉を編み出しました。

井手:ほめると野党は怒るし、けなすと与党が反発するから。このバランスは中庸でも本当に難しかったはずです。

野田:そうです。ご遺族はいるし。

井手:「歴史の法廷に永遠に立ち続けなければならない運命」「あなたが放った強烈な光、その先に伸びた影」、これらの表現は「中庸」という意味で、見事なバランス感覚です。

次ページ最初は「歴史の法廷の被告」としていた
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