日本人は現状追認をリアリズムと勘違いしている 「古典の叡智」を生かせていない保守とリベラル

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しかし、この議論は本当に正しいでしょうか。たとえば、しばしば日本は同調圧力が強いと言われます。その一方で、アメリカは日本と違って多様な意見を尊重すると信じられています。しかし、実はアメリカ社会にも強烈な同調圧力があります。アメリカには多くの移民が流入し、文化的な多様性を生み出しているように見えますが、実際はアメリカに渡った移民の2世、3世はそのルーツの文化や言語を忘れ、アメリカ文化に適応し、英語を話す傾向が強い。アメリカ社会は「人種のるつぼ」と言われますが、文字通りさまざまな民族の文化を溶かし、アメリカ文化という鋳型に流し込んでしまうのです。

アメリカ文化の特徴はマクドナルドに代表される

また、アメリカ文化の特徴はマクドナルドに代表されるように、徹底した標準化・画一化にあります。ハインツの缶詰、T型フォードからスマートフォンに至るまで、アメリカ人は製品やサービスを徹底的に標準化・画一化するのを得意としています。これは多様性とは正反対の態度です。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『小林秀雄の政治学』(文春新書)などがある(撮影:尾形文繁)

『奇跡の社会科学』で取り上げたアレクシス・ド・トクヴィルは、「アメリカでは、人々の精神はすべて同じモデルに基づいてつくられており、また、そうであればこそ、それらの精神は正確に同じ道を辿っているともいえよう」と記しています。トクヴィルがこう指摘したのは400年前のことです。アメリカ社会が多様性を尊重するというのは神話にすぎないのです。

施さんも『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)で日本特殊論について疑問を呈していますが、この点について改めてご見解をお聞かせください。

:中野さんのお話にまったく同感です。たとえば、アダム・スミスに『道徳感情論』という本があります。スミスは経済学の父であると同時に社会心理学の父でもあります。スミスはこの本で、人間の自我というものは他人の目を気にするところから生まれると書いています。普段、人々は他人の目を気にしながら生活しているが、都会で暮らすようになると、次第に他人の目を気にしないようになっていく。そうなれば、人間は堕落し、質が落ちてしまうというのがスミスの議論です。

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