国の一般会計が自賠責保険から「借金」していた 財務相は「1回ですべてお返しするのは無理」

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もちろん、一般会計からの繰り戻しも法律で明記された。前掲の繰り入れとともに、「平成6年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰り入れの特例等に関する法律」で、後日、予算の定めるところにより、その繰入金とともに、繰り入れがなかった場合に生じたと見込まれる運用収入に相当する額を合算した額に達するまでの金額を、一般会計から自動車安全特別会計に繰り入れる、と明記されている。それは今なお有効である。

だから、一般会計が「借金」を踏み倒したわけではない。ちなみに、一般会計は自動車安全特別会計から借金をしたのではなく、繰り入れを受けたというのが法律上正しい表現である。ただ、前掲のとおり、繰入金の元本だけでなくそこから見込まれる運用収入も合わせて後年度に払う、といっており、いわば借金して元本だけでなく利息分も支払うことになるので、一般会計は自動車安全特別会計に「借金」をしているともいえよう。

実は、自賠責保険からの「借金」は、この時が初めてではなかった。1983年度にも、自動車損害賠償責任再保険特別会計から一般会計へ2500億円が繰り入れられた。ちょうど1981年度の歳入欠陥が明らかとなり、1983年度にその補填を迫られていた。このとき、この繰り入れの根拠となった「昭和58年度(同=1983年度)の財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律」には、利息分を繰り戻す規定はなく、単純に繰入金をそのまま繰り戻すのみで、1987年度までに完済した。

だから、当時の判断としては、税収が回復すれば、「借金」は完済できると考えたとしても不思議ではない。ただし、この「借金」は歳入欠陥の補填と紐付けられているわけではない。

ところが、1992年度に続き2年連続で、1993年度決算でも一般会計で歳入欠陥が5663億円生じたことが、1994年7月に発表された。この補填は、1995年度予算で行わなければならなかった。

結局、1995年度予算では、自賠責保険から一般会計へ3100億円を繰り入れることとした。繰入額は2年合計で1兆1200億円となった。それでも同特別会計には、2兆0404億円もの積立金がまだ残っていた。

「借金」返済は2003年度までは続いていたが…

この「借金」の返済は、翌1996年度から始まった。2003年度までは繰り戻しが続いていたが、それ以降ぱったりと途絶えた。一般会計の財政状況が厳しく、繰り戻すための財源が工面できなかったからである。この時点で、未繰り戻しの元本はまだ4800億円ほど残っていた。これに利息分を合わせると約6000億円にのぼる。

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