自衛官の「命の値段」は、米軍用犬以下なのか 実戦の備えがないため派兵どころではない

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自衛隊の個人携行救急品の内訳、赤字の部分が国内用セット(出所:陸上自衛隊幕僚監部)

陸自の場合、中隊レベルでは衛生小隊から中隊救護員(1~数名)が配属され、「応急処置」を実施することになっているが、実際は人員・予算不足のため1名の場合が多い。その下の小隊、分隊、個人レベルでは「個人携行救急品」によって戦闘部隊隊員自らまたは隊員相互に「救急処置」をすることになっている。

陸幕の説明によれば「陸上自衛隊において、新たな脅威や多様な役割に対する実効的な衛生支援ニーズ(ゼロカジュアリティーの追求)が増大してきている事を踏まえ、個人携行救急品の充実を図ったものである」といい、導入の目的は「隊員個人の救急処置能力の強化」であるという。

2013年、筆者の取材とそれに基づく当時の君塚陸幕長に対する質問から、「個人携行救急品」にはPKOなどを想定した国際用(国外用)と通常用(国内用)との二種類が存在することが分かった。以下にその構成品を紹介する。

左が通常補給品(国内用)、右が国際活動等補給品(国外用)(提供:陸上自衛隊幕僚監部)

●国際活動等補給品(国外用)・・・救急品袋(砂漠迷彩)、救急包帯、止血帯、人工呼吸用シート、手袋、ハサミ、止血ガーゼ、チェストシール

●通常補給品(国内用)・・・救急品袋、救急包帯、止血帯

一見して国内用のセットが極めて貧弱なのが判る。袋だけは大きく立派になったが、内容品の数は冒頭で述べた包帯2個のうち1個が止血帯に変わったのみである。第2次世界大戦から70年を経た医学の進歩を反映させた研究を行ったとはとても思えない。セットの金額を合計すると国際用が1万6323円、通常用が8493円となっており、約2倍の違いだ。国内用はとても東日本大震災の教訓を活かしているとは言えないレベルだ。

生命を守ること、手足の温存、視力の維持を追求

ここで米陸軍のキットを紹介しよう。2012年度12月から米陸軍は従来のファースト・エイド・キットであるIFAK(Improved First Aid Kit)からIFAKⅡへと更新を開始している。IFAKⅡは内容品の種類も量も増えており、これは米軍衛生の方針である「LLE」に基づいている。LLEとはLife(生命)Limb(手足)Eyesight(視力)のことであり、まず生命を守ることを最優先として、生活に大きな支障が出ないよう、手足を温存し、視力を維持することを追求している。

救急キットと訓練を改善することに留まらず、防弾ゴーグルの着用を兵士が嫌がるのであれば、デザイン性の優れた防弾サングラスを支給するなどの点も、陸自と大きく異なっている。当然国外用、国内用の区別はない。

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