自衛官の「命の値段」は、米軍用犬以下なのか 実戦の備えがないため派兵どころではない

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米陸軍のIFAK II(写真提供:米陸軍)

まず以前のIFAKの構成からみておこう。

その内訳は、止血帯×1、4インチ幅戦闘用包帯×1、伸縮性ガーゼ包帯×1、2インチ×6ヤード絆創膏×1、経鼻エアウェイ×1、胸腔減圧用脱気針×1、消毒用アルコールパッド×2、駆血帯×1、静脈路確保用留置針×1、留置針固定用テープ×1、感染防止用手袋×1となっている。

IFAK Ⅱのアイカップ(提供:米陸軍)

新型のIFAKⅡはこれらに加えて、止血帯×1を追加、チェストシール×1、怪我をした目を覆うカップ(損傷を受けた眼の上から包帯で圧迫してしまうと、眼球自体が腫れる圧力も加わり、更に眼球に損傷を与えてしまうため、カップで隙間を空ける)、被服やシートベルト等を裂く安全カッター×1、負傷者記録カード×1が追加されている。

陸自の「個人携行救急品」の海外用ですらIFAKⅡはもとよりも、IFAKからも大きく劣っていることが理解できるだろう。

さて、ここで米陸軍の軍用犬用の救急キットの内容についても見ておこう。

軍用犬用の救急キットもここまで充実している

人体用4インチ幅戦闘用包帯×2、胴体の損傷や切断された四肢の被覆用包帯×1、伸縮性ガーゼ包帯×4、素材が止血剤で製造されたガーゼ包帯×1、ワセリンガーゼ×2、胸腔減圧用脱気針×2、消毒用アルコールパッド×2、駆血帯×1、留置針固定用テープ×1、注射器×1、骨折固定用副子×1、感染防止用手袋×5、安全ハサミ×1、ピンセット×1、目の洗浄剤×1,消毒液×1、自着性包帯×1。ここまでは人間用のものが流用されている。

これらに加え、動物専用救急品として、動物用ガーゼ×1、動物用体温計×1、犬の口を固定するバンド×1、動物用2インチ幅絆創膏×2、動物用4インチ幅絆創膏×2、が追加されることで構成されている。 

陸自が採用した「個人携行救急品」と較べて、軍用犬用のキットの方がはるかに充実している。つまり陸自の個人衛生キットの内容は米軍の軍用犬以下である。自衛官の命の価値は犬以下なのだろうか。

「個人携行救急品」の国外用と国内用の違いを陸幕は以下のように説明している。

「(国内用は)国内における隊員負傷後、野戦病院などに後送されるまでに必要な応急処置を、医学的知識がなく、判断力や体力が低下した負傷者自らが実施することを踏まえ、救命上、絶対不可欠なものに限定して選定した。国外用は、国内に比し、後送する病院や医療レベルも不十分である可能性が高いため、各種負傷に際し、自らが処置できるための品目を、国内入れ組に追加して選定した」

だがこの回答は全く非現実的である。救急処置は必ずしも怪我をした隊員本人が行うわけではない。手を吹き飛ばされたり、意識を失ったりした隊員が自分で救急処置ができるわけがない。仲間同士で互いに処置をすることは自明の理だ。

また国内用の「個人携行救急品」では銃創に対処できない。銃創は銃弾が身体を通過する入口と出口を伴うものであるから、包帯1個では1箇所の銃創すら処置できない。陸自の「個人衛生セット」は戦傷を研究した結果の選定ではないことは医療の素人でも判る。

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