次世代の鉄道車両「主役」は水素かハイブリッドか 当面は「すぐ使える」バイモード車両が先行?

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アルストムは6年前の2016年に、業界に先駆けて水素燃料電池車両「iLint(アイ・リント)」を発表、すでに営業運転も行われており、今回は水素燃料電池車両は展示しなかった。今回水素燃料電池車両を実車展示したのは、ドイツのシーメンス、スイスのシュタドラー、そしてポーランドのペサだった。

シーメンスは、今回初めて水素燃料電池近郊型車両「Mireo Plus(ミレオ・プラス)H」を発表し、屋外に実車を展示したが、隣にはまったく同じ形の車両がもう1編成展示されていた。同じ事業者向けで、色も形も一緒だが、もう一方の車両は水素燃料ではなくバッテリーを搭載した「Mireo Plus B」であった。

シュタドラーは、アメリカのカリフォルニア州サンバーナディーノ向け近郊用車両を持ち込んだ。アメリカの車両を展示することは非常に珍しいが、車両が完成してアメリカ大陸へ船積みする前にお披露目を行った。ほかにはペサが構内入換用機関車を展示した。

Siemens Mireo Plus B
シーメンスが展示したハイブリッド車両「Mireo Plus B」(撮影:橋爪智之)

コストがかさむ水素燃料車両

ただ、前回と比べて水素燃料車両の展示は増えたが、激増というほどではない。

水素燃料電池車両は、次世代の理想的な動力源の1つであることには違いないが、燃料源となる水素の供給にはまだ課題が多い。

水素の製造にはいくつかの方法があり、主に化石燃料をベースに製造する方法と、電力によって製造する方法がある。前者は化石燃料を燃やしてガスにして、その中から水素を取り出す「改質法」と呼ばれる。製造コストはこの方法が一番安いが、問題点は同時に二酸化炭素が発生することで、水素燃料車両を走らせるための水素製造過程で大量の二酸化炭素を排出したのでは本末転倒となってしまう。製造時に発生する二酸化炭素を回収して再利用する方法も研究されているが、まだ課題も多い。

一方、電力による方法は、水を電気で分解する「電解法」と呼ばれる製法で、この電解に再生可能エネルギーを利用すれば、二酸化炭素を排出せず水素を製造することが可能となる。再生可能エネルギーを利用して製造される水素は「グリーン水素」と呼ばれ、これが最も理想的な製造方法であるが、非常に大規模な電力を必要とするため、天候などに左右される再生可能エネルギーを用いるにはまだ課題が多い。電力を火力発電所などから得るのではこれまた本末転倒となってしまうため、再生可能エネルギーによる電力を安定供給できる方法を確立させることが必要だ。

水素燃料電池車両のもう1つの課題は、燃料を供給するインフラとセットで整備する必要がある点だ。水素燃料電池車両を使う場所としてはまず地方の非電化区間が想定されるが、地方都市はどこの国も決して財政が潤沢ではない。車両本体が高価で、さらに運行に必要なインフラの整備まで必要となると、とても地方ローカル線を運営する小規模な民間企業の手に負えるものではない。導入は国や州、地方自治体のバックアップが必要不可欠の大規模なプロジェクトとなってしまう。

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