なぜ「円高・デフレ」が日本を救うのか アベノミクスは最初から間違っていた

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だから、円安で一見景気が良くなっても、輸出利益が増えても、長期には、国民所得が流出し、国家と国民は貧しくなり、成長力も景気水準も低下していくのである。

これは、何も初めてのことではない。小泉政権の戦後最長の好景気、2003年から2007年にかけてのことである。このときは、実感なき景気回復と言われた。実感とは、あいまいなもので、あのときも株高で、儲かっている人を儲けられなかった庶民が妬んでいるかのように言われたが、実はあの「実感」はデータに裏付けられたものだった。

あのときは、円安が進み、世界的なバブル、アジアの成長があって、輸出は大きく伸びた。このときは、今と違って、生産量も輸出量も、だから雇用量も伸びた。だから、間違いなく景気は良くなっていた、GDPが増えると言う意味で、良くなっていたのである。しかし、庶民の生活は苦しくなっていた。それは、まさに交易条件の悪化にあった。

資源価格が、世界的な投機により高騰した。穀物など、食料品も投機のあおりで高騰した。バイオ燃料などという、もっとも効率が悪く環境を破壊するものが流行し、食用穀物、飼料用穀物は高騰した。

この結果、日本の輸入品の価格水準が高騰した。交易条件とは、取引の条件であるから、円安も、このような輸入品自体の価格の上昇も、日本には不利になる。これまで、自動車1台を売って、必要なモノを手に入れていたのだが、交易条件の悪化により、自動車2台売らないと、同じモノは手に入らなくなった。

今こそ、円安を止めよ

つまり、輸入品、しかも必需品、とりわけ電力、ガソリンなどにつかうエネルギー資源への支出が急増し、それ以外の普通の消費への予算が大幅に減少したのである。つまり、買えるモノは減り、生活水準が下がったのである。これが実感なき景気回復の実態であった。

現在もまさに、まったく同じ状況となっている。2014年の景気低迷、実際には2013年10月から始まっていた景気の減速は、円安政策による、庶民の実質可処分所得の減少によるモノで、それで消費が減少したのである。駆け込み需要でそれが予想以上に見えなくなっており、2014年4月以降、これが顕在化したのである。

2014年10月末の追加緩和は、これに懲りず、アベノミクスによる景気減速、実質可処分所得減少の第2弾バズーカとなった。円安が急進し、株は上がり、これによる資産効果が出てくる一方で、庶民の消費はさらに冷え込んだ。

原油が下がっているのが、消費税引き上げ前の駆け込み需要と同じで、この影響を見えにくくしている、天恵だか、天災だかわからないが、ともかく、原油安に隠されているが、日本をあえて貧しくする、交易条件悪化政策がさらに進められ、日本経済は停滞していくだろう。

だから、いまこそ、円安を止めなくてはならない。これを詳しく、またさらに発展させ、取るべき政策、日銀の異次元緩和の出口のシナリオ、真の成長戦略を、拙著「円高・デフレが日本を救う」で提案した。またの機会に、この話もしたいと思う。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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