トヨタ、賃金ベアをめぐる労使の神経戦 会社側は「想定以上に高い」とけん制

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デフレ脱却の牽引役を果たせるか

幅広く利益を還元していく中で自社の賃上げを抑制すれば、自社従業員を後回しにしていると言われかねない。デンソーやアイシン精機といったグループ会社にとって、トヨタの妥結額が事実上の”天井”となっている。トヨタ系だけでない。独立系自動車部品メーカーの副社長は「トヨタを常に見ている。昨年もトヨタの決着を見て、少し下回る水準にした」と打ち明ける。

トヨタが賃上の幅を抑制すると、他の企業の賃上げも抑制される。それでは産業界のリーダーとしてデフレ脱却の”牽引役”を果たせない。しかし、トヨタの業績が絶好調とはいえ、トヨタ系の部品メーカーすべてが一様に上り調子なわけではない。トヨタ系中堅部品メーカーの役員は「トヨタはベアでの満額回答があるかもしれない。そうなればウチもゼロ回答は難しいので、そうならないことを願っている」といった声があることも確かだ。

前述の副社長も「組合の期待が高まるので、トヨタが満額にはしないでほしい」と漏らす。トヨタは労組を牽制しているが、自分たちの労使交渉の”ベンチマーク”となるトヨタの回答に対し、トヨタ系部品メーカーが警戒するという構図ができあがっている。

本来、賃上げは自社の競争力を考えながら、労使で決めていくもの。しかし、突出した存在感から好むと好まざるとにかかわらず、トヨタは日本経済全体への目配りを求められてしまう。要求への回答日は3月18日。トヨタの組合員だけでなく、他社の経営者、組合も交渉の行方にかたずをのんで見守っている。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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