日本人は、「本当の戦争の現場」を知らない 「紛争屋」が語る、今の国際紛争の現実

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──欧米ができることは。

殲滅は無理だ。米国はベトナムでもアフガニスタンでも失敗したが、相手はそういった四つに組める国や組織ではない。反乱者や反体制武装勢力と訳されるインサージェントという言葉で扱われる。中心人物を殺しその勢力の中枢に空白を作っても、組織の弱体化につながらない。もっと危険な代わりが出てくる。

この動向を米国もわかっている。だが、民主主義下でやる戦争は大統領や政権の人気が懸かる。戦争では成果を形にして出さないといけない。中長期には悪影響が出るような、目先の成果を上げようとする。これが民主主義国のやる戦争のいちばんの問題だ。相手のインサージェントはそんなことを気にしないから、この戦争は終わらない。タリバンさえ殲滅できなかったのだから。

──戦争といっても、国同士とは違うのですね。

こういう形の戦争は最近の現象だ。冷戦構造崩壊後の内戦の時代にたがが外れた。もともと植民地支配の延長で無理な国家建設をしたような国だから、内戦が起こる。さらに政権にチャレンジする勢力が出てくる。それがインサージェントだ。米国自体、気に入らない政権を倒すためにそのインサージェントを使ってきた。イスラム国も米国が支援してソ連と戦わせた連中の末裔だ。

「テロリスト」という言葉の二面性

──この間、いろいろな局面で米欧に有志連合ができています。

今の有志連合というのは直接的ないし間接的に国連の承認を受けている。国連憲章の第7章に基づいた強制措置の決議がある。もちろん、国連としては武力行使をサポートしないとのただし書きはある。日本も加盟国だから、これを誰かの勝手な戦争とはいえない。

──テロリストとの戦いです。

米国はテロリストという用語を便宜的に使っている。テロリストとしてしまえば人権を考慮せずに殺せる。これは国際社会がやってきたことだ。ただし、私が暫定政府の知事をした東ティモールの反政府ゲリラは今の政府だ。彼らは反政府ゲリラのときにテロリストと呼ばれた。そういう二面性があり、主観的なものだと認識して使わないといけない。

──イスラム国はテロリスト。

テロリストと言わざるをえない。でも、ワンフレーズであいつはテロリストだというのは簡単だが、そのテロリストの発生の経緯にわれわれの責任がある場合もありうる。

──日本人の関心は、今の平和な状態をどう維持するか、です。

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米国から離れるという選択肢は現実的ではない。では沖縄をどうするか、米国が戦争をするときにどう付き合うか。それは、米国のジレンマをどう補完していくかだ。

米国は現地国の民主化に失敗し続け政策転換をしてきた。そのジレンマがある。米国の補完に日本の役割があると考えるといい。そうなれば、われわれは従属しているのではないとして愛国心も満たされる。

──日本には「脅威」がたくさんあるとみられています。

その脅威についても、中国に戦争を仕掛ける気があるのか。ありえない。もう一方の敵、対話できない敵については、通常兵器の増強で彼らを抑制できるかといえば、できない。インサージェント、たとえばタリバンの戦略はどんどん民衆の中に入っていく。挑発に乗せて口実を作る。そして大義にする。それを想定して国防を考えなければならない。

その国防は通常戦力を保有することと関係ない。彼らがターゲットにするのは日本本土のいちばん弱いところ、原子力発電施設に決まっている。自由社会には言論の自由、知る権利があり、必ず抵抗勢力がある。諜報力だけでは完全ではない。あらゆる面で敵を作らないことがいちばんよく、そう認識して国防を真剣に考えないといけない。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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