「10万人に1人の希少がん」と闘う女性の生きる力 生きてさえいれば、よいことがたくさんある

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卒業式を終え、4月からは職員をサポートする側の部長職となりました。3カ月に1度のインターフェロン投与は続いていましたが、病気をマイナス要素とせず、逆に責任ある立場に引きあげてもらえたことは、Mさんの大きな励みにもなりました。

ですが、その年の秋から、Mさんはうつを発症します。

きっかけは、新しいほくろを見つけたことでした。主治医に「ちょっと気になるんです」と相談したら、「あー、それ、再発かもね」と言われたのです。医師があまりに軽く言ったそのひとことで、Mさんの中で何かが完全に切れてしまいました。

「これまで、ずっとずっと頑張ってきたのに」「どうして私の人生は、こんなにも思い通りにいかないの……」

気分が沈み、食べ物がのどを通らず、Mさんは当たり前のことが何一つできなくなりました。

豆電球すらまぶしくて仕方なく、すべての明かりを消し、音を一切遮断しても、眠れないのです。まるで自分のほうから死に向かっていくような、走っている車に吸い込まれていくような感覚の日々でした。風船に針が刺さり、空気が全部抜けてしまったかのように、生きるエネルギーそのものを失ってしまったのです。

そんな状況が半年近く続きました。

そこからMさんを救ってくれたのは、お世話になっていた緩和ケアの看護師さんの懸命なケアであり、そして猫の存在でした。

久しぶりにお兄さんと出かけた買い物先のペットショップで出逢った生まれたばかりの子猫。一目で何かを感じるものがあり、連れて帰ることにします。自分がいないと死んでしまうかもしれない存在と四六時中一緒に過ごすことで、Mさんは生きる力を徐々に回復していったのです。

5万人に1人の副反応も経験

そして、さらに1年後のことです。今度は右脇に小豆ぐらいの大きさのしこりが2個できていることにMさんは気づきます。最初は乳腺のトラブルかと思ったのですが、現実はかなり厳しいものでした。

CT検査の結果、肺、肝臓、骨、皮膚と、全身にがんが散らばっていることが判明。5年生存率33%のステージ4と診断されたのです。

これでもう、自分の人生は終わってしまうのかもしれない。自分には歳をとるという、ごく当たり前のことさえ許されないのだ、とMさんは打ちのめされます。

ですがその反面、再発かもしれないという体験を一度していたことで、冷静に対処できる面もありました。いざというときのために、ターミナルケアを受ける場所を調べ、樹木葬が行われているところを探しました。

また、宝くじも買いました。実は1回目の手術のとき、Mさんは血管造影剤の投与で強いアレルギー反応を起こし、急性心不全を経験しています。そのような反応を起こすのは5万人に1人だそうです。10万人に1人のがんになり、5万人に1人の反応を起こすぐらいなら、きっと宝くじも当たるだろう、と買ってみたのです。

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