ジャクソンホール会議後の日米欧金融政策の行方 白井さゆり慶大教授(元日銀審議委員)に聞く

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――日銀では来年4月に新総裁(未定)に引き継がれます。

新総裁が誰であろうと、政策の柔軟性を高める方向には行くのではないか。

今の日銀に求められるのは、まずは過去10年間の黒田日銀の総括をきちんとしたうえで、マイナス金利と長期金利の関係を考えることだ。そのうえで大きな利上げのような枠組みは考えづらいが、市場の状況を見ながら柔軟性を高めることが基本となる。

そして、もっと国民との対話をやっていくべきだ。日銀の金融政策について国民の7割ぐらいがわからないという調査もあり、政策の枠組みを簡素化し、国民にわかりやすい方法に転換する必要がある。

日銀総裁が国民との対話を行い、一般国民の目線でわかりやすい説明に努力すべきだ。国民生活に密接に関わる消費者物価についてはとくにそうだ。

さらに、気候危機が世界で起きている中、中央銀行として脱炭素を目指したサステナブルファイナンス市場の発展にもっと積極的に関与することが求められる。私は近著『カーボンニュートラルをめぐる世界の潮流 ~政策・マネー・市民社会~』において世界の中央銀行のグリーン金融政策について扱ったが、多くの中央銀行が脱炭素に向け積極的に動いている。

アメリカの長期金利が低下すれば円安収束へ

――一時再び1ドル139円台に乗せた為替市場についてはどう見ますか。

為替市場はアメリカの金利との関係が深い。とくに10年物の米国債利回りとの相関が強い。アメリカの利上げが進むにつれ長期金利も上昇し、年末にかけもうしばらく円安が進む可能性があるだろう。

ただ、アメリカの長期金利が下げに転じれば円安も収まる。すでに6月に3.5%を付けた後は上がりにくくなっており、円安も140円台を超えてどんどん進むという話ではないのではないか。

おそらくアメリカは(景気減速を受けて)再来年には政策金利を中立金利(2.5%前後)に向け下げてくるため、その前に長期金利には低下圧力が強まる。一方でFRBが今年9月からQT(量的引き締め)を本格化させることが需給面から長期金利の上昇圧力となるが、国際的な米国債への買い需要でかき消される可能性もある。全体的に見て、来年以降はアメリカの長期金利が低下に転じ、程度は別として円高方向に修正される可能性が高いのではないか。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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