"動的な独占"こそが、技術革新を加速する ピーター・ティールが語る「成功する起業」

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もし100年ものあいだ何も社会が変わらないことを前提とした独占であれば、これは社会に対する税金であり、悪い状態になっていく。逆にアップルのiPhoneのような非常に優れたスマートフォンの例は、社会を動的にするうえ、良い方向に変えていく良い独占です。

もう一つ付け加えると、米国における独占を巡る動きを振り返ってみますと、1970年代にはIBM、そして1990年代にはマイクロソフトに対して米国政府が独占に対して疑いの目を向けました。

そのタイミングを見ると、70年代にはちょうど世の中がハードウェアからソフトウェアに変わろうとしている時でした。そして1990年代はデスクトップからインターネットへと移行しようとしていた時期とちょうど重なります。このように、既存企業による独占が弊害をもたらし、精査が必要な時代に政府が行動を起こしていると言えます。

「動的な独占」と「静的な独占」

――独占企業が技術の進化を止めるのを防ぐために、当局が動くということでしょうか。

政府は企業が守りの静的な独占状態に入ろうとした時に独禁法の規制をするべきです。ただ、政府は技術の動きを止めてはならない。ソフトウェアやコンピュータの企業というのは、独占状態になりがちで、しかも非常に利益率が高い。そのため批判されることもあるが、動的な状態にあれば、その企業の独占状態は正しい。

独占状態にあるからこそ、優秀な人材や投資がひとつの企業に集まってくる。独占をしやすい業界というのは、優秀な人材や資本を引き付ける産業でもあるのです。優秀な人材や資本が集まるからこそ、イノベーションが起こる。動的な独占は、非常に望ましいと言えるわけです。

逆の例として考えられるのはクリーンテクノロジーです。この業界は、非常に独占がしにくい。そのため、クリーンエネルギーの分野では価格決定力を持ちにくく、失敗する企業が多く出ています。優秀な人材や資本がが集約することもない。そのため、なかなか成功事例が出てこないのです。

後編:「気の合うチーム」がゼロからイチを生み出す

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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