日本で「両利きの経営」が大注目された根本理由 実務家が学ぶべき「経営理論」という共通言語

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入山:「両利きの経営」という言葉は、私が自分の著作で最初に使い始めたものです。

「ambidexterity」という経営学の考え方はもとからあり、日本の経営学者は「双面性」とか難しい言葉を使っていました。せっかく「両利き」という言葉があるから、それを使いたい。しかし、両利きだけではピンとこないので、「両利きの経営」という訳にしました。今は一般用語みたいになってきましたね。

冨山:硬い漢語ではなく、大和言葉のほうが、みんなの感性に響くので、そこは大事です。それから、イノベーションというと、何となくぼんやりするけれど、そこに経営の枠組みを当てはめたのも良かった。

入山さんの解説にある、縦軸に「知の探索」、横軸に「知の深化」をとったフレームワークは、私もよく利用しますが、あれも経営者の助けになっていると思います。図を見ながら、自社の分析をすれば、社内のコミュニケーションも進めやすくなりますから。

経営理論から実務家が学べること

入山:共通言語があるのは重要ですよね。『両利きの経営』も、拙著の『世界標準の経営理論』も、しょせんは学者の言っていることですが、抽象化して示されているので、共通言語になる。現場では、皆さんが具体だけで話すので、こっちの具体と、あなたの具体は違うとなってしまいます。

入山章栄(いりやま・あきえ)/早稲田大学ビジネススクール教授。1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2019年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』などがある(撮影:尾形文繁)

冨山:抽象化すると、会話できる範囲が急に広がり、探索に成功する確率も上がります。ドメインが広がるので。それができないと、個別の世界だけとなって、ガソリンエンジンで何とかしようという話にしかならない。変異幅が大きい今は、それでは解決しないことが増えています。

日本では、会社に入ると、具象化や個別化の連続です。特に改善・改良は個別化の作業で、思考方向は抽象から個別に行ってしまう。しかも、みんなずっと同じ会社にいるので、自社に固有なものを具体化し、微分力のある人が偉くなる。

抽象化は逆です。個別事象の共通点から世の中を動かす法則を見出す。特に文系の方々はその思考訓練を受けずに学部卒で就職するので、グローバルでは競争上の弱点になっています。

国の問題も同じで、壁にぶち当たったときに、改善改良で何とかしのごうとする。基本モデルを変えればよいと僕は思いますが、それは大それたことなので、みんな政省令をいじって何とかしようするから、複雑怪奇になっていく。

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