日本人の賃金上昇には「ルールある解雇」が必要だ 「好条件の転職」を「当たり前」にするためには?

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普通の上場企業の場合も、自社の株価の上昇を目指したり、あるいは株価の下落を避けようとして努力するし、経営に規律が生まれる(一方で、上場が単なる無駄手間と余計なコストにすぎず、上場に意味のない会社もあるが、それはまた別問題だ)。

もっと少し小さな規模に目を転じても、セカンダリー・マーケット(いわゆる流通市場)で株価が高く評価される期待があってこそ、上場を目指すベンチャー起業家が張り切ってビジネスに勤しむ。

株式にセカンダリー・マーケットがなければ、全体として企業の価値はより成長しにくくなるし、株式時価総額もより小さいだろう。加えて、株式市場の評価を通じた資金配分、ひいては資源配分の効果も悪化するだろう。

「日本の賃金」にはセカンダリー・マーケットがない。少なくとも、著しく未発達である。そこに大きな問題があるのではなかろうか。

会社の「席」が空かない!

日本にも転職市場は存在するが、人の流動性はまだ小さい。株式で言うと、未上場会社が金融機関の手引きで別の会社に買収される場合があるような、その程度の人の取引があるにすぎない。

一流企業の社員の多くは、「買い物」としても「売り物」としても市場に出ていない。

では、オバゼキ先生が言うように、社員個人が自分の報酬を上げるべく経営者と交渉しようとするとどうなるか。

経営者に十分な報酬の引き上げを呑ませるためには、「これだけ払えないなら、私はこの会社を辞めて転職します。それでもいいですか?」という脅しが利かなければならない。しかし、現状ではそれがなかなか難しい。自分が次に職を得ることができる「空席」がなかなか見つからないからだ。

外資系の投資銀行(投資銀行というと偉そうに聞こえるが、単なる証券会社である)の場合、1億円プレーヤーが転職してくることによって、仕事が重なる5000万円プレーヤーがクビになるようなことが起こる。その仕事のポジションが1つだとすると、会社にとっては、1億円払ってもいいプレーヤーを使うほうが、期待利益が大きいからだ。

5000万円プレーヤーのほうは、会社から退職に伴うパッケージ(通常は金銭的補償)をなにがしか受け取って、業界内の別の会社に移っていく。正社員の「クビ」というオプションが会社側にある仕組みのほうが、圧倒的に「空席」が生じやすい。

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