年金減額!マクロスライドがついに始動 将来世代の給付改善はできるのか

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2014年の物価上昇率は昨春の消費増税の影響が大きく、2.7%増を記録した。だが2014年12月時点で、消費増税の影響を除いた物価上昇率は0.5%まで低下。原油価格の下落もあり、今年は0.数%から、場合によっては、再びマイナスの領域に入ることが民間エコノミストの間では予想されている。

年金額改定の際は、これに2012~14年の実質賃金変動率が加味されるが、こちらもマイナス。1%程度のマクロ経済スライドの調整率を差し引くには、それを上回る名目手取り賃金上昇率が必要であり、現状では実現の余地は小さくなっている。

デフレ下でもマクロスライドを発動すべき

仮に今後、物価や賃金の適度な上昇が実現しないと、マクロ経済スライドは再び封印されることになり、先述のトレードオフの“逆転現象”が起きてしまう。つまり、現在の高齢世代がたくさん取りすぎ、将来の高齢世代の給付水準が一段と低下するのだ。

アベノミクスによりマイルドなインフレを目指す安倍晋三政権。だが、将来の物価動向が不確実な中で、どのような状況下でも将来世代の給付水準を犠牲にしないように、デフレ下でのマクロ経済スライドのフル発動を法制度化することが急務である。

税制の分野では、子や孫の子育てや教育、住宅取得などに向けた資金提供に対し、贈与税の非課税措置が拡大している。これは経済政策の一環として、世代間の私的な所得移転を促したもの。子や孫への高齢者の思いは強く、「近年の税制改革での大ヒット作」(財務省関係者)というほど、利用率が高い。

これと同様なことを公的年金制度で行うのがマクロ経済スライドである。給付削減には抵抗感が大きい現在の高齢世代だが、マクロ経済スライドの持つ意味を理解すれば、決して受け入れられないものではないはずだ。

「週刊東洋経済」2015年2月21日号<16日発売>「核心リポート04」を転載)

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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