芸能人を攻撃「暴露系YouTuber」の法的な問題 プライバシーを晒すことに批判的な意見も多い

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名誉毀損に関して、刑法230条の2は「その目的が専(もっぱ)ら公益を図ることにあったと認める場合」を1つの違法性阻却事由としているため、収益性がある場合は、違法性阻却についてはより厳格に判断される可能性もあります。

ただし、収益性があるのはテレビ、新聞、週刊誌などの主要メディアも同じことなので、いちばんのポイントは、元動画が名誉毀損になっているかどうか、すなわち真実か否かです。元動画が名誉毀損にあたれば、基本的に切り抜きも名誉毀損になるといえるでしょう。

暴露されたら、アカウント停止を求めることも視野に

──現在、暴露の対象となっているのは、主に芸能人や有名YouTuberですが、一般人が私生活や過去の不貞行為、前科等を暴露された場合、削除や損害賠償を求めて、訴えを提起することはできますか。

もちろん訴えることはできますし、名誉毀損にあたれば、刑事告訴もできます。ただ、現実問題として、訴えた場合には、配信者はさらに攻撃的な動画を投稿する可能性も考えられます。そのため、YouTubeのガイドライン違反からアカウントの停止を求めることを先行させて、そのあと訴える手法を検討することも有効です。

アメリカ由来のプラットフォームということもあり、YouTubeのガイドラインは、たとえば、ポルノにはかなり厳しい対応をしています。本人の同意なしのリベンジポルノ的な動画を上げれば、一発でチャンネル停止もあり得ます。

今年に入り、東谷氏をはじめ、芸能人を対象にした暴露系YouTuberが注目されました。芸能事務所側の対応は、基本的に「無視」というスタンスが多いようです。YouTuberが一方的に暴露しているだけならば、テレビやネットニュースであまり扱われることはないものの、むしろ反論することでニュースになってしまうという傾向があるからです。

ある意味、YouTuberとの関係では、視聴者やメディアが「個人のYouTuberの信ぴょう性が怪しい」という冷静な見方をしているとも考えられます。それゆえ、個人のYouTuberが暴露しても、それだけではあまり問題にならず、そこから逮捕や裁判につながらなければ静観、というスタンスが定着しているのでしょう。

個人の場合でも、暴露された内容に応じて、訴訟対応するのか、SNS上で否定・反論をするのか、静観するのか、それとも刑事告訴するかというさまざまな手段を検討したうえでの対応が重要になってきます。

河西 邦剛(かさい くにたか)弁護士
レイ法律事務所

「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活 〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。

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