史上最大のボロ儲け ジョン・ポールソンはいかにしてウォール街を出し抜いたか グレゴリー・ザッカーマン著/山田美明訳 ~「裏に道あり花の山」を地で行った成功物語

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史上最大のボロ儲け ジョン・ポールソンはいかにしてウォール街を出し抜いたか グレゴリー・ザッカーマン著/山田美明訳 ~「裏に道あり花の山」を地で行った成功物語

評者 高橋 誠 ユナイテッド・マネージャーズ・ジャパン会長

 今ヘッジファンド業界で最も注目を浴びているジョン・ポールソンの物語である。彼は、今回の金融危機のもとであるサブプライムローンによる多額の損失の裏側で、大儲けをした。

その当時、大方の市場参加者は過去に下がったことがないという理由で、住宅市場の上昇がこれからも持続すると考えていた。しかしポールソンは企業合併に絡む裁定取引の専門家であり、決して不動産のプロではなかったが、社員の提案で住宅ローン市場の破綻を予想し、まだあまり一般化されていなかったCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を利用してその下落に大胆に賭けたのである。その結果、2007年に運用ファンドのリターンは、約6倍にもなった。相場の格言「人の行く裏に道あり花の山」を地で行ったわけだ。その成果は07年の個人年収が約40億ドルという「金融市場最大」の報酬だ。

その成果が生じるまで、他人には知られずにCDSを購入していく過程やトリプルB格債を狙い撃ちするさま、弱い住宅関連指数が発表されても、CDSの価格は店頭取引のために市場動向に敏感に反応しない様子などが活写される。ポールソンはその後も、破綻の可能性のある投資銀行や商業銀行のCDSを購入し、英国の銀行株の空売りをして、さらに大儲けをする。

09年には逆に売られすぎた銀行株、不動産ローン担保付証券等を購入して利益を上げ、そして10年には量的緩和策によるドル価値の下落を見越して金に投資し、再度大儲けをするのである。こうした戦略が次々と成功していく過程は、運用専門家ならずとも興味が尽きず、実に面白いの一言に尽きる。

ちなみに彼の昨年の年収は、07年を凌駕する50億ドルであった。翻訳はこなれているが、一部誤訳があるのは残念である。

Gregory Zuckerman
ウォール・ストリートジャーナルのシニアライター。人気コラムを担当するほか、ヘッジファンドや投資など、ウォール街関連の記事を執筆する。CNBCの番組に週に2回出演中。

阪急コミュニケーションズ 1890円 406ページ

  

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