フランスのマクロン大統領、議会選挙敗北の打撃 「革命」から「停滞」へ、国内外で発言力は低下へ

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マクロン大統領にとって内政面での重要な政策課題としては、物価高騰の負担軽減措置と年金改革が挙げられる。

このうち前者については、負担軽減措置の規模や中身についての意見相違こそあるが、対策が必要な点で主要政党は一致している。野党の協力は比較的得やすい。後者については、NUPESや国民連合の支持者の多くが年金支給開始年齢の段階的な引き上げに反対しているのに対して、アンサンブルや共和党の支持者の多くが引き上げに賛成、ないし反対はしているがその必要性を認識している。

アンサンブルと共和党の政策は、年金改革以外にも、労働市場改革や財政赤字削減などでオーバーラップする部分が多い。今後、マクロン大統領が共和党の協力で政権運営を行う場合、今回の選挙であらわとなったフランス国民の改革への不満が高まることも予想される。お決まりのデモやストライキが頻発しよう。強引な改革を進めれば、次の大統領選挙や国民議会選挙で、極左や極右の支持がさらに高まりかねない。

フランスの大統領は三選が禁止されており、今後の5年間はマクロン大統領にとって、選挙を意識せずに改革を成し遂げる絶好の機会となるはずだった。だが、議会基盤の脆弱化で改革の推進力は大きく削がれるだろう。大統領の任期が近づくにつれ、ポスト・マクロンを睨んだアンサンブル内の権力闘争も表面化しよう。

EUでのリーダーシップ発揮にも暗雲

ドイツでメルケル首相が引退し、後任のショルツ首相が十分な指導力を発揮できずにいる中、マクロン大統領には欧州のリーダーとしての役割を期待する声も多かった。就任以来、ユーロ圏共通予算の創設、投資活性化による成長促進、欧州の戦略的自立、防衛・安全保障協力強化などの欧州改革を訴えてきた。6月にはドイツのショルツ首相やイタリアのドラギ首相に呼びかけ、ロシアによるウクライナ進攻後で初めてキーウを訪問し、紛争解決に向けた働きかけを強めている。

だが、国内の政治基盤の弱体化により、欧州の復権や統合強化でのリーダーシップ発揮にも暗雲が漂っている。5年前、「革命」を掲げて39歳の若さでフランス大統領に就任したマクロン氏の眼前にも、多くの先人達と同様に「停滞」の文字がちらつき始めた。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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