日本の格付け見通しを「ネガティブ」に変更した理由《ムーディーズの業界分析》

拡大
縮小


 過去には、好調な世界経済による企業利益および政府税収への好影響に伴い、07年にプライマリーバランスの赤字がGDP比で約1%まで縮小したことがあった。しかし、10年度にはGDP比で約7%まで増大するとみられる。

政府債務は、このまま増大し続ければ、ムーディーズがベースラインシナリオとしている、「慎重な」シナリオ(図表2参照)では20年までにGDP比222%に達する。「成長戦略」シナリオではGDP比193%と、増大幅はそれほど大きくない。これらは、IMF方式ではそれぞれ、GDP比275%と245%となる。

ムーディーズは、債務のGDP比率が内閣府方式で250%、IMF方式で300%まで増大するネガティブシナリオも検討した。経済成長率が1990年代当時の程度まで低下するというシナリオに基づくものである。これは明らかにネガティブなシナリオだが、向こう10年間で世界の成長率が予期せず低下する可能性として、警戒する必要があろう。米国やユーロ圏政府の、債務および失業率に関する課題への対処が難しい状況となる可能性がある。世界的なインフレ圧力の上昇や、中東での地政学的リスクの増大を伴えば、さらに難しくなる。

有効な政策対応の必要性

こうした状況に対応すべく、日本政府は、6月に包括的税制改革案を提示する意向である。しかし、野党自民党が参議院議席の多数を占める「ねじれ国会」の状況と、菅首相に対する政治的な圧力が高まる中で、政府の取り組みが行き詰まる可能性がある。また、日本の政治システムは、小泉政権以降、頻繁な政権交代を繰り返している。

06年9月以降、自民党の首相3人、民主党の首相1人が1年程度の任期で交代している。首相の頻繁な交代は格付け上、ネガティブな要因である。一貫性のある、有効な経済成長および財政改革戦略の実行可能性は疑わしい。

未知の領域--視界の端に見え始めてきたのか、あるいはまだかなり先か

日本国債の発行が困難となるような危機的状況が短期から中期的に発生するとは考えにくいが、長期的にはその圧力が高まる可能性がある。世界的な金融危機の時期を通じて、日本国債は安全投資対象として、米国債よりも良好で安定的なパフォーマンスを示した。政府は他の先進諸国よりも低い名目コストで資金調達を行うことができる。しかし、実質的に、利回りは米国債に近い。

日本は、際立った国内投資志向を生み出している、厚みがあり発展した金融市場を持つ。GDP比債務比率が非常に高い水準にあるにもかかわらず、GDPの3倍に相当する十分な国内貯蓄により、政府は赤字の穴埋めを海外資金に依存する必要がない。

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