東電が原発事故で「初の謝罪」に追い込まれた事情 従来の方針を修正、6月17日に注目の最高裁判決

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判決の確定を機に、地元自治体からも賠償問題の解決を促す声が出ている。福島第一原発が立地する双葉町は判決確定後の3月25日、原告への謝罪に加え、訴訟に参加していない住民を含む地域住民への一律の賠償額の上積みを東電に要請した。

5月16日には大熊町など福島第一原発の立地町および周辺の4町長らが東電の小早川社長と面会。中間指針で定められた水準を上回る損害賠償を全町民に支払うことを求めるとともに、萩生田光一経済産業相には東電に追加賠償支払いなどの指導を要請した。福島県も国の指針に明記されていない損害への対応を含めた賠償の徹底を4月19日付けで東電に要求している。

原発事故に伴う損害賠償のあり方については、環境法学や環境経済学の専門家などで構成される福島原発事故賠償問題研究会が現在の国の指針では不十分だとしたうえで、その抜本的見直しに向けての提言を6月8日に発表。賠償額の上積みや賠償対象区域の拡大の必要性があるなどと提言した。

被害者救済は重大局面に

東電は今回、判決が確定した訴訟のみならず、係争中のものを含む三十数件にのぼるすべての集団訴訟において、「原発の敷地高さに達するような津波の襲来は予見できなかった」とし、「取るべき対策を怠ってきた」との原告の主張を否定し続けてきた。賠償についても原賠法に基づき国の指針が定めた水準で十分であるとしてきた。

これに対して、賠償内容や水準に納得できない被害者は、訴訟や裁判外紛争解決手続き(ADR)を通じて東電に賠償額の上積みを要求してきた。だが、訴訟は10年近くにも及び、ADRでも東電が和解案を拒否する事例が相次いでいる。解決を見届けることも、ふるさとに帰ることもできずに鬼籍に入った被害者も少なくない。

6月17日には、国を相手取った「生業(なりわい)訴訟」など4訴訟の最高裁判決が予定されている。そこで東電を監督する立場の国が敗訴して法的責任が認められた場合、東電の責任も今まで以上に厳しく問われることになり、被害者救済の流れは一気に加速する。原発事故をめぐる被害者救済は重大な局面を迎えている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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