アフリカ「残虐殺し屋軍団」とロシアのヤバい関係 ロシア傭兵会社ワグネル・グループの正体

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ニューヨーク・タイムズが閲覧した国連調査団の機密報告書とACLED(武力紛争発生地・事件データプロジェクト)の研究員がまとめたデータベースによると、モウラを含むマリ中部では、マリ軍とワグネルの共同作戦によって、これまでに500人近い民間人が殺害されている。国連はある報告書の中で、「人道に対する犯罪」にあたる可能性のある事案も含まれると述べている。

国連調査団は5月30日、民間人に対するマリ軍の人権侵害は今年3月にかけて2021年末の10倍になったと明かした。モウラでは治安部隊が「多くの民間人に対し、レイプ、略奪、無差別な逮捕・拘留を行った可能性がある」という。同調査団は、モウラでの事件について報告書の作成を進めているところだ。

サハラ砂漠の南に広がる広大なサヘル地域の軍隊は、西側による訓練を経た後も自国民の殺害を続けているとして以前から非難の対象となってきた。しかし、拷問、暴行、即決処刑といったマリにおける人権侵害は、ワグネルの傭兵が投入された地域で報告されている人権侵害とパターンが一致する。

プーチン人脈の「総帥」は取材に…

ワグネルは、ウラジーミル・プーチン大統領と密接な関係にあるロシアのオリガルヒ(新興財閥)エフゲニー・プリゴジン氏が率いていると考えられている。そのプリゴジン氏はニューヨーク・タイムズが送った質問に書面で回答し、マリの現政権と軍、そしてモウラでの行動を称賛した。ただし、ワグネルという組織が存在するというのは「伝説」に過ぎないとし、マリにおけるワグネルの存在も否定した。

マリに駐在するフランス軍当局者と上級外交官によると、マリにはワグネルの戦闘員が約1000人派遣され、少なくとも15の軍事基地、前哨基地、検問所に配置されているという。ここには、フランス軍が使用していた基地やヨーロッパ連合(EU)が資金を拠出した施設も含まれる。

傭兵使用に関する国連作業部会のソーチャ・マクラウド議長は、傭兵が投入された場所では人権侵害と戦争犯罪が必ず増えるという。「彼らには、紛争を終わらせようという気がない。傭兵にとって紛争はビジネスだからだ」。

マリにおける国連平和維持活動の調査団は、これまでのところモウラへの立ち入りを拒否されている。国連安全保障理事会では、ロシアと中国が拒否権を行使し、独立した調査の実施を阻んだ。

マリの住民の間では、政府に対する信用が失われ続けている。

モウラとは別の村の事件で兄を殺されたというオマールさんは「白人兵士が私たちをジハーディスト(イスラム聖戦主義者)から開放してくれると思っていたが、彼らの方が危険だ」と話した。「少なくともジハーディストたちは、見境なく発砲するようなことはしないから」。

(執筆:Elian Peltier記者、Mady Camara記者、Christiaan Triebert記者)
(C) 2022 The New York Times

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