事業構造をグローバル化し、「値下げ賃下げの罠」脱却--山田 久・日本総合研究所ビジネス戦略研究センター所長《デフレ完全解明・インタビュー第11回(全12回)》

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そういうことをやろうとすると、プロフェッショナルな人材が必要になる。米国のグローバル企業の本社には人事、知的財産権管理、環境技術の標準作り、法務、財務などにプロフェッショナルが非常に多い。また、大学もそういう分野の人材を育成して支えている。

そう考えると、大学改革も必要になってくる。日本の場合、自然科学の分野に目が行きがちだ。だが、今の日本企業の問題はむしろ、「技術で勝って事業で負ける」という点にある。たとえば、ルール作りや交渉術が非常に弱い。その意味では、社会科学の分野で、ビジネスに密接に関連した教育を強化していく必要がある。政府も大学を戦略的に位置づけ、そうした分野の予算を増やしていくべきだ。

製造業をグローバルな構造に変えていくには、当然、政府はEPA(経済連携協定)やTPP(環太平洋経済連携協定)を推進していかなければならない。国内は本社機能強化が基本になるが、ものづくりのコア部分は残すことを考えるべきで、日本から輸出するときのみ関税がかかることになれば、残すべき製造部門も海外に移転せざるをえなくなる。

民主党政権は国内の医療、介護、保育分野で、「増税して再分配」という発想だが、これでは、デフレから抜けられない。やはり製造業の立て直しで稼ぎ、そこで得た税金を回していくという考え方をとるべきだ。国内に高度な本社機能が根付けば、プロフェッショナルな事業向けアウトソーシング産業でも高賃金雇用が増える。医療、介護、保育、教育などは公共的な部分なので、所得の低い人でも一定のサービスを受けられる体制を作ると同時に、供給サイドには競争原理も入れるべきだ。製造業では雇用が減らざるをえないので、雇用をこの分野で吸収していく。

--労働移動の問題についてお願いします。

労働組合は労働移動を積極的に考える方向に転換しなければならない。企業との交渉では、新しい職の斡旋や職業訓練の費用を出させていく形にするべきだ。スウェーデンの例では、経営者連盟が人員リストラをせざるをえないときに備えておカネを積み立て、失業保険だけでは生活できないので、補填している。

政府も非正規雇用をやめさせるとか、解雇させないという政策ではなくて、産業構造転換に対応した労働移動が可能になるような職業訓練や職業紹介の仕組みを整備していく積極的な労働政策をとるべきだ。「産業や企業を救わず、人を救う」という発想に転換し、政労使で合意してセーフティネットを作ったうえで労働移動可能にする必要がある。

■デフレを理解するための推薦図書■
『金融政策論議の争点-日銀批判とその反論』 小宮隆太郎、日本経済研究センター編/日本経済新聞社
『資本開国論-新たなグローバル化時代の経済戦略』 野口悠紀雄 著/ダイヤモンド社
『グローバル・シティー-ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』 サスキア・サッセン 著/筑摩書房

やまだ・ひさし
1963年生まれ。87年京都大学経済学部卒、住友銀行(現三井住友銀行)入行。日本経済研究センター出向を経て、93年から日本総合研究所調査部。経済研究センター所長、マクロ経済研究センター所長を経て、07年より現職。近著に『雇用再生』、『デフレ反転の成長戦略』。
撮影:谷川真紀子

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