意見広告?こんなイスラム批判は許されない 同性愛者容認問題を巧みに利用

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イスラエルによるパレスチナ人の待遇を批判する人々すべてが、同性愛者や他のあらゆる暴力に無関心なわけがない。しかも、この2つの問題はほとんど関連がない。

イスラエル政府がアラブ人をヨルダン川西岸の彼らの土地から追い出そうとしているのは、パレスチナの、あるいはイランの同性愛者を保護するためではない。そもそも同性愛者の待遇についてイスラエルを批判する者はいない。

西側諸国がイスラエルを周辺より手厳しく批判すると指摘するだけなら、それは誤りではない。だがこの広告は、こうしたダブルスタンダードがアラブ諸国とイランの同性愛者の抑圧につながっているとほのめかしており、誤りだ。抑圧に目を向けるよう求めることは、イスラエルとパレスチナの諸問題への注目を減らす理由にはならない。

欧州の右派ポピュリスト諸政党は、イスラム教徒の女性の扱いを非難することで、少数派のイスラム教徒への、人々の反感をあおっている。イスラム教徒の男性の多数が、西側諸国の大多数の現代人が許さないやり方で女性を扱っていることに疑いの余地はない(ユダヤ教超正統派の男性も同様)。それでも同胞市民から彼らを排除する理由にはならない。

人権が戦争推進に使われてきた

(写真:peus/Imasia)

より深刻なのは、人権が戦争推進に使われてきたことだ。極端な人権侵害から人々を救済するための「人道的な介入」という考えは国際連合にも受け入れられており、道徳的で高尚に聞こえる。

が、大半の「人道的」戦争は、救済しているはずの人々をめぐる状況を悪化させる。イラクで起きたように社会を分断し、数百万人の生活を破壊し、対立を激化させる。だから戦争は自己防衛か同盟諸国の防衛のためにのみ正当化された。

政治的対立に軍事介入を持ち込むことを正当化するため人権にかかわる言葉を用いる危険は、戦争を招くことだけではない。主張している理想そのものをおとしめてしまうのだ。

週刊東洋経済2015年1月31日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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