人口動態で需要が減少、民間が工夫するしかない--藻谷浩介・日本政策投資銀行参事役《デフレ完全解明・インタビュー第5回(全12回)》
要点
・生産年齢人口の減少による消費減退が日本経済停滞の理由
・「デフレ」の実態は供給過剰による値崩れというミクロ現象
・処方箋は女性の雇用拡大、若者の賃上げ、外国人観光客誘致
--著書『デフレの正体』で、日本経済の長期停滞の原因は「人口動態」にあるとして、注目されました。
北海道から沖縄まであらゆる地域で、大企業から零細企業まで回って話を聞き、データを全部見ていくと、構造がきれいに見えてくる。どういう構造かというと、日本では10年にわたって、特定の業界で供給過剰による値崩れというミクロ的な現象が続いているということ。その結果、企業は人件費を削り、さらに内需が縮小していく。マクロ経済学に言う物価が一律に下がる貨幣現象としてのデフレではない、ということだ。
供給過剰が起きているのは、住宅、家電、車を筆頭に、家具やスーツや居酒屋まで、販売量が現役世代の頭数=生産年齢人口に連動しやすい業種だ。生産年齢人口の絶対数が減り始めた地域から先にモノが売れなくなり、経済が傷んでいくという現象が明快に観察される。ラストリゾートだった東京でも10年前から生産年齢人口が減少し始め、内需不振が深刻だ。例外が沖縄で、生産年齢人口が増え消費も減っていない。
--ほかにも生産年齢人口が減っている国はあるのではないですか。
生産年齢人口減少にいくつか他の条件が加わったから、日本でだけこのような供給過剰が起きている。他の条件とは、機械化の進んだ非常に生産性の高い製造業が各分野に存在し、労働力が減っているのに生産力が落ちないこと、1人当たりGDPが世界最高水準に達し、1人当たりの消費の伸びしろが少ないこと、高齢者の消費性向が現役世代に比べ著しく低いことだ。
日本以外には、1人当たりGDPがトップクラスで、かつ居住外国人を含めた生産年齢人口が減っている国はない。ただ、英『エコノミスト』誌の日本特集にもあったが、今後は欧州や東アジアでも同じような条件がそろう国が増えていく。日本は世界の成熟の最先端を走っている。