受験を知らない子供たち、懸念は学力低下より突破力
ある上場企業の人事担当者の話。「入社2年目ぐらいから伸びない、つまずく若手社員にある共通点がある。それは大学入試を一般受験ではなく、AO入試(アドミッション・オフィス入試、学科試験ではなく、大学が求める学生像に照らし合わせて合否を決める)や推薦で入学していること」。
もちろん、個人差はあり、そうでない人もたくさんいることを断らなければならない。しかし、ここ数年で急増したAO入試や推薦入学が、転機を迎えていることも確かだ。
文部科学省によれば、2009年度の大学入学者のうち、私立大学の場合、AO入試が10%、推薦入試が41%と、非学力型入試の割合が半数を超えている。国公立大学でも計17%に及ぶ。国公立、私立とも急増しているのはAO入試だ。AO入試は1990年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスが初めて導入、97年の中央教育審議会が答申で入試改善の方策として挙げたことを受け、各大学が競うように採用した。
しかし、08年12月には推奨した中央教育審自身がAO入試増加などを受け「入試の選抜機能が低下、入学者の学力水準を担保することが困難になりつつある」と指摘している。
この背景には大学側の思惑もある。AO入試は、合格者のうちどの程度実際に入学したかを示す入学率(歩止まり)がほかより高い。一般入試で3割台、推薦でも8割台の入学率の中、AOでは95%と取りこぼしが極めて少ない。少子化で受験者が減る中、確実に学生を確保できるAO入試は大学にとって願ってもない入試策だったのだ。また、入試時期もこれまで制約がなく、「早いところでは3年の1学期のうちに合格を出す」(塾関係者)大学もあるという。また、推薦入学では全入学者の半分までと枠が定められているのに対し、AOでは特に制限がない。
さらに、入学者の確保には苦労しない上位校でも隠れた思惑がある。AOや推薦入試の枠を広げ、一般入試の枠を狭めることで合格難易度を上げ、結果的にその大学の偏差値を上昇させることにつながっているというのだ。大学は認めないものの、「関係者の中では常識」(同)という。これによって、同大学・同学部内での学力格差拡大を引き起こしているとの見方もある。