中小企業を襲う税制改正、相続税の負担も拡大

拡大
縮小

納税猶予の利用に雇用維持の高い壁

もう一つは税率。10%から50%まで6段階だったものを、10%から55%までの8段階に変更する。

従来、実際に相続税が課された人は、死亡者のうち4%程度だった。だが、改正でこの割合の拡大が見込まれるほか、事業承継にもマイナスの影響を与えそうだ。

もちろん、政府も対応を考えていないわけでない。今回、相続税と贈与税に関して、中小企業の非上場株式を承継する際の税負担を軽減する「納税猶予制度」の要件を一部緩和。使い勝手を改善した。

が、どれだけ機能するかは不透明だ。「中小企業白書」によれば、中小企業は年間平均で約27万社が廃業し、このうち後継者不在による理由が7万社を占める(01~04年平均)。事業承継は以前から問題視されてきた。にもかかわらず、納税猶予制度が導入された08年10月以降、同制度で認定された件数は相続税で258件、贈与税で30件にとどまる。

事業承継専門の税理士法人タクトコンサルティングの玉越賢治税理士は、「納税猶予制度を活用するには雇用の8割以上を維持するという、5年間の事業継続要件が必要。リーマンショックのようなことが起きてもクリアできるのか、経営者にとって心理的に高いハードルになっている」と指摘する。税理士の大半は経理計算や申告業務が主体で、事業承継まで手が回っていないのも一因のようだ。

日本の中小企業で働く従業員数は約2780万人余り。今回の税制改正がカンフル剤となるのか。効果は未知数だ。

(週刊東洋経済2011年1月8日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

写真は本文とは関係ありません。撮影:今祥雄

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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