「実家の片づけ」はもはや社会全体の悩みだ 東京一極集中のツケは大きい

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週刊東洋経済2014年12月20日号(12月15日発売)の特集は「実家の片づけ2」です。8月に発売し大反響を呼んだシリーズの第2弾。整理整頓から売却、墓じまいまで総まくりしました。

実家の片付けは、親との「世代間ギャップ」を実感する場面でもある。物のない時代に育った親世代は、物を捨てる、処分することに対して罪悪感がある。そして、物を買うことに満足感を覚え、物に囲まれていることが安心感につながることもある。

一方でモノ余りの時代を生きた子ども世代は、「断捨離」という言葉がはやったように、物を捨てることに躊躇せず、逆に物を買うことに対して躊躇してしまう場面もある。往々にして、片付けの場面でこうした価値観の違いが浮き彫りにされる。

そもそも実家の片付けは、戦後日本の歩みの当然の帰結だ。戦後日本はほぼ一貫して東京一極集中による経済成長を目指した。

地方だけでなく首都圏でも「片づけ」

バブル崩壊後の1990年代半ばを除いて、1955年から現在まで一貫して東京圏に人口が流入。その流れは止まっておらず、2014年度も年10万人超が東京圏に流入する見込みだ。他方、関西圏の流入は1970年代前半までであり、名古屋圏は転入出はほぼ均衡している。戦後一貫して東京圏が人口の受け皿となってきたのだ。

「家」のあり方も変化した。戦前の家長制度が崩れ、誰が家を守るかがはっきりしなくなった。そうなれば、多くの地方に実家、そして親だけが取り残される。いま子ども世代が実家の片付けに追われるのは、日本社会がつくってきた全体の流れの中にある話なのだ。

人口減少時代を迎え、地方だけでなく、今後は首都圏の郊外でも取り残される実家が数多く出てきそうだ。特に郊外のニュータウンでは1960~1970年代に開発されたところが多い。ちょうど開発から40~50年が経過。親が現役を引退した他方で子どもは実家を離れ、独立している。地価の下落が進む中で、郊外の実家をどう処分するかは深刻な問題となるだろう。

いま実家の片付けに直面する子ども世代は50~60代が中心。彼らはいわば、「片付け第一世代」だ。単なる一過性ではなく、今後ますます深刻化する問題であることは間違いない。

並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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