(産業天気図・鉄鋼)2004年度も1億1000万トン維持、原料価格上昇の価格転嫁進み連続増益へ

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鉄鋼業界では、中国などアジア向け輸出の好調で目下、フル生産が続いている。粗鋼生産は2002年度に1億0979万トンと過去5番目の水準を記録したが、2003年度は1億1091万トンと、1990年度以来の1億1000万トン超えとなる見通し。2004年度もアジア向け輸出の好調が続くうえ、自動車、造船、建設機械向けも順調に推移。民間設備投資関連では底打ちの兆しがでてきており、粗鋼生産は2003年度に続いて1億1000万トンの大台を維持できる見込みだ。
 一方、2004年度業績の利益圧迫要因と見られていた原料価格上昇に対しても価格転嫁できるメドがたってきている。昨年末から今年初めにかけて行われた鉄鋼各社と大手サプライヤーとの価格交渉は、主原料となる鉄鉱石と原料炭の2004年度価格が2~3割の値上げとバブル時代並み価格で決着。さらにコークス、ニッケル、合金鉄、スクラップ、フレート(海上輸送費)までも軒並み上昇。鉄鋼全体では、2003年度に比べて6000億円超、粗鋼1トン当たり6000円近いコストアップ要因になると見られていた。
 これに対して、鋼材価格は足下、熱延鋼板の輸出価格が1トン当たり500ドル、国内向けH型鋼も1トン7万円に迫るなど、輸出、国内市況品向け価格は原料高分を吸収できるまで上昇。自動車、造船など、いわゆるヒモ付でも2004年度の価格は5~10%の値上げで決着するもよう。原料価格の上昇はほぼ吸収できる見通しだ。
 価格転嫁にほぼメドがたったうえ、2003年度の特殊要因が消え、鉄鋼大手の2004年度業績は、大幅増益を達成する可能性が高まっている。
 新日本製鉄の場合、2003年度、営業利益段階で名古屋製鉄所のガスホルダー事故による影響で130億円、君津製鉄所第4高炉、大分製鉄所第2高炉の改修負担で300億円の減益要因が発生。特別損益段階でも固定資産の減損前倒しで600億円など1050億円の特別損失を計上したが、2004年度は営業段階のマイナス要因が一巡。特別損失も退職給付債務移行時差異などを除いて消える見込みだ。
 新日鉄と同様、JFEホールディングスも、2004年度は前期に計上した旧NKKの福山製鉄所、京浜製鉄所の償却方法を定率法に変更したことによる償却負担の増加115億円が消滅。住友金属工業は鹿島製鉄所の突風被害による影響50億円という臨時費用がなくなるうえ、和歌山製鉄所の熱延設備除却損など大型の特別損失が一巡する。また、神戸製鋼は2003年度に一時的に積みました設備保全費150億円が消えるうえ、今年4月からIPP(電力卸供給事業)の第2号機が稼働を開始し、営業利益で100億円近い貢献が期待できる。
【野口 晃記者】

(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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