松井一郎「日本のためにはまともな野党が必要だ」 「23年春の政界引退揺るがない、次に後を託したい」

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塩田:岸田首相の基本的な方向は、経済政策では分配重視路線と見られています。

松井:分配するには財源が要ります。大阪市、大阪府とも、10年前は財源がなかった。でも、財源を作ったらやれた。われわれがやった改革を日本中でやったら、財源は絶対できると思います。ただ、すごい抵抗があります。最初に取り組んだのはスリムな役所の実現でした。立憲民主党系、共産党系の労働組合は大抵抗しましたが、乗り越えました。

塩田:維新が国政政党として、同じ姿勢で国政でも改革路線を貫けば、霞が関の官僚機構の抵抗や反対、逆襲などが予想されます。

松井:大抵抗があるでしょうね。だけど、霞が関にも改革派が絶対にいると思います。政治家が生ぬるいことをやるから、改革派の人も国益より省益を考えるようになる。大阪府と大阪市の職員もそうです。職員になって最初に公務員として宣誓するときは、みんな公僕として公に奉仕するという高い志を持って入ってくる。

ところが、入ると先輩がいて、「そんな、頑張ってもな、一緒や。まあ、先輩に言われるようにしといたらええねん。そのほうが大事にしてもらえるし、しんどい思いをせんでええねん」と言う。組織の中で経験を積み重ねるたびに、最初の志がどんどんなくなっていく。

塩田:府庁や市役所の中で、どうやって改革派を育て、広げていったのですか。

松井:政治家が本気度を見せることだけです。そこがわれわれの身を切る改革です。それでガラッと変わります。大阪府庁、大阪市役所でも、改革派の人たちはずっと支えてくれました。今の局長とか部長は、僕らがやり出したとき、課長とか係長だった人たちで、このままだと大阪府はどうなるの、と危機感を持っていて、改革が必要と感じていた職員。府民の満足度とか、公務員としてのやりがいもある。住民から「これ、やってくれて、ありがとう」とか言われると、やっぱり職員もうれしいですよ。

政治は怒りからスタート、今は本当に怒ってない

塩田:2023年4月で政界引退というと、年齢は60歳です。その後の人生設計は。

松井:それはまだ考えてないんですよ。何、しようかなあ。

塩田:以前のインタビューで、「政治家をやるモチベーションは怒り。大阪の改革に取り組んできたのも怒りから」とお聞きしました。現在の国政の状態を見て、全国政党の党首として怒りに火がつき、引退せず、続けてやるという気にはなりませんか。

以前は「立憲民主党や共産党が政権を取ったら、もう一度、怒りに火がつくかも」と漏らしていましたが。

松井:今、立憲民主党と共産党で政権を取ることは100%ありませんから。今のところ、怒りが込み上げることはないですね。

塩田:一度、現場から退場した後、一休みして、いずれ政治で次の挑戦、という考えは。

松井:何度も申し上げていますけれども、政治は怒りからスタートしているんです。それがない間は政治の世界には戻ろうと思ってません。今は本当に怒ってないので。

(撮影:ヒラオカスタジオ)
塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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